外はお日様サンサンで気が滅入るけど、一度家に入って冷房をつければそんなもの関係ない。今日はクロの家に来た。もうすぐ研磨も来るはず。
「お、来たか」
「やっほー研磨」
「……」
部屋のドアを開けた研磨は無言で荷物を床に落とし、わたしに近寄って来た。気にせず漫画を読んでいると、ぺたりと座り込んでわたしの肩におでこをのせた。
「どしたー研磨」
「暑さにやられたか」
「…蝉いた…」
「そりゃあ夏だしねー」
「蝉もいるわな」
ぼやいた研磨を他所にわたしとクロは顔を見合わせた。うん、蝉はいるよな普通に。
「違う、死んでた」
「そうかー、でもまぁ生きてりゃ死ぬよね」
「一週間しか生きれないしな」
互いに頷いてわたしたちは会話を終わらせると、研磨は頭をぐりぐりさせた。今全く関係ないけど、日に日に色落ちが激しくなるプリン頭がよく見えて気になりつむじをつついた。
「…二人の馬鹿。もう知らない」
「あ、拗ねるなよー研磨。わたし研磨の好きなアップルパイ買ってきたよ」
「アイスでものせるか?お前好きだろ、アイスのせ」
部屋の隅で丸まった背中にご機嫌をとろうと、おやつに買ってきたアップルパイの話題を持ちかけると、クロも会話にのっかってきたおかげか細い背中がうずうずし始めた。
「…食べる」
「よしよし、じゃあこっちおいでー」
「ゲームでもするか」
「わたし見てる役ー」
「だめ、三人でできるやつやるよ」
ゲームのことはあまりよくわからないから、ソフトを選ぶ役目は二人に任せた。ああでもないこうでもないと言っている二人を見ていると、昔から何も変わっていなくて笑ってしまう。
時々ふと、考える。こうやってなんてことないことを話せるのは、とくに理由もなく遊べるのは、何もしなくても楽しくいられるのは一体あとどれくらいなんだろう。わたしはあとどれくらい、二人と一緒にいてもいいんだろう。二人はきっと馬鹿げたことだと笑うだろうけど、わたしは昔からずっと、何度も考えてしまうのだ。
「やっぱマリパだろ」
「スマブラがいい」
「ヨッシー使いてえんだよ」
「スマブラにもいるじゃん」
「わかってねえなー、マリパのヨッシーとスマブラのヨッシーは別もんなんだよ。双方にいいところがあるんだ」
「意味わかんないし」
「…ふふっ」
間の抜けた会話に思わず笑声を漏らすと、二人は何事かと振り向いた。
「なんだお前、急に笑ったりして…怖っ」
「泰葉はどっちがいい?」
「どっちでも。二人で決めて」
「決まんないよ、クロ意味わかんないもん」
「お前たちはまだ本当のヨッシーの魅力を知らない」
「ほらね」
「ほんとだーうける」
今日の日もいつか、懐かしいと思う日がきっと来る。それまでには嬉しいことも、そうじゃないこともたくさんある。でももし、もし叶うなら。
「よし、わかった。じゃあ間をとってテトリスにしようか」
「「却下」」
「二人して否定するなよー」
懐かしいと笑うそのとき、こうして三人でいれたらいい。
おまけ
「…え、アイスないの」
「そんなまさかぁ。ねえ?クロ」
「ないな」
「……」
「ちょっと黒尾さーん、うちの研磨がショックのあまり固まってるんですけど」
「悪い悪い、ついノリで」
「…クロ買ってきてよ。俺泰葉とスマブラしてる」
「暑いから嫌だ」
「クロー、研磨のテンションあげたのクロなんだし買ってきてあげなよー」
「じゃあ泰葉も来いよ。俺のおかげで研磨の機嫌損ねずに済んだろ」
「うーん、まぁそうだけど」
「泰葉行くならおれも行く」
「じゃあ鉄朗くんは家で留守番を」
「「ふざけんなよ」」
「怖えよチビ助共」
(ハーゲンダッツのアイスにしようよ)
(は?ちょ、研磨…?)
(それもいいけど、このお得用のを五個ぐらいとか)
(泰葉ものるんじゃねえ俺の財布がぺらっぺらになるわ!)