「わたしね、イライラするの」
「カルシウム足りてないんじゃないすか」


本当に、なんの悪気もなさそうに言うから、思わず手元にあった教科書で思いっきり飛雄の頭を叩いてやった。


「いってぇ!八つ当たりじゃないすか」
「元凶殴ってストレス発散したら相殺できるかなと思って」


嫌味っぽくそう言えば、飛雄は頭の上にハテナを浮かべたような顔をする。

現在、飛雄の部屋で勉強中。勉強を教えてほしい、とこのかわいいかわいい後輩に頼まれたのは昨日の放課後のことだった。二つ年下の彼はバレー部に所属していて、口を開けばバレーのことばかりのバレー馬鹿だ。きっと部活が大変で学業が追いつかないのだろう、ああなんて青春なんだろう。よし、かわいい後輩でかわいい彼氏のためにお姉さん一肌脱ごうじゃない。そう思って快く了承したのはいいが、困ったことにこいつはバレー馬鹿ではなくただの馬鹿だった。少しわからない問題がでると寝ようとするし、字は汚いし、言葉を知らない。本を読め本を。というか教科書を読め。


「赤点とったら遠征行けないんでしょ?もっと死ぬ気でやりなさい」
「うっ…ぐう……」


ぐうの音も出ないとよく言うけれど、出たね、ぐうは。怖い顔をして問題集とにらめっこをする姿は、はたからみればとても愉快だろう。それが中学生のまとめ問題集でなければ。困った、本当に困った。


「ほーら、ここさっきやったべ?思い出して」
「んん…?……あ!!」
「きた?思い出した?」


相変わらずぐちゃぐちゃの字で自信あり気に空白を埋めていく。最後の問題を終え、彼は無言でわたしに問題集を差し出した。別紙の答えと見比べながら赤ペンをいれている間、飛雄はぎゅっと目を瞑って何故か正座で待っていた。


「…よし。終わったよ」
「ど、どう…ですか」


未だに目を閉じたままの飛雄の頭を軽く撫でて、問題集を閉じた。


「全問正解。よくできました」


そう言えば彼は、嬉しそうに目を見開いてはガッツポーズをした。肩の力を抜いて思い切り伸びをすると、飛雄がわたしに抱きついてきた。


「よーしよし、お疲れさま。でもちょっと休んだら再開するからね」
「…あの、」


筋肉質な背中を撫でると、突然肩を掴まれて目と目が合う。


「俺、テストも遠征も頑張るんで、その、」


"今度は泊まりにきてほしいんすけど"



(わたしの愛すべきお馬鹿な後輩は)
(馬鹿なくせに、わたしを虜にする天才)


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