※「秒速で動く点Pとの関係」続編です。







おかしい。


「今日どうする?坂ノ下行く?」「来週テストある教科なんだったっけー」「うわっ教科書忘れた!」


今日も変わらず騒がしい教室。でもおかしいのはそんなことじゃない。


「ツッキー、ちょっといい?」
「何、山口」
「今日の部活なんだけどさー」


お前だお前月島。なんで、なんでこう…いつもと同じなの!?昨日あんな、あんなことしておいて…こっちは昨日一睡もしてないっていうのに!


「泰葉おはー…って、なんで月島くんガン見?」
「ガン見じゃない、ガン飛ばしてんの」
「何故によー、変な顔になるよ」


そう笑って自分の席についた友人。…笑い事じゃ、ないのに。


「……ふっ」
「!?」


わたしの視線に気付いた月島は小馬鹿にしたように鼻で笑った。あ、かちーんときた。許さない。待ってなさい、放課後きっちり問い詰めてやる。





「ちょっと、話あるんだけど」


そして放課後、ホームルーム終わりに月島にそう告げた。クラスメイトたちはわたしたちをちらちら見ていたけど、各々部活や帰宅のため教室からいなくなった。


「何?僕も暇じゃないんだけど」


心底面倒そうに言う月島にむっとしながら、ここでキレたら負けだと自身の心を落ち着かせた。大丈夫、順序立ててきちんと聞けばいいだけだ。何故あんなことをしたのか、と。


「昨日のあれ、事故じゃないよね。どういうつもり」
「あれってどれ。ちゃんと言ってよ」
「…あんたね、」
「ああ、もしかしてキスしたこと気にしてるの?意外と乙女だねぇ」


月島がわざととぼけたフリをしたものだから、堪えきれなくて頬を叩いた。


「……最低」


鞄を手にわたしは教室をあとにした。

信じられない。結局、理由は聞けなかったけど、あんな言い方するなんて。…はじめて、だったのに。一瞬でもどきどきした昨日の自分も殴ってやりたい。少しだけ目に涙が滲んだ。やっぱり大っ嫌いだ、あんなやつ。


「ちょっと」


その声に振り向けば、見事に叩いた部分を赤くした月島がいた。肌が白いからよくわかる。無視して早足で下駄箱に向かうと、足音がだんだん近づいてくるのがわかった。


「ちょっと!」
「ついて来ないで」
「人が呼び止めてるんだから黙って聞きなよ」


ついには小走りしていたのに、わたしは月島に腕を掴まれ捕まった。不覚だ。走って逃げれば良かった。


「あんたと話したくなんてない。もう顔もみたくない。あんたみたいなやつ、やっぱり嫌い…!」


掴まれた腕を振りほどこうとしても、男子の力には敵わなかった。それでも振り払わずにはいられなかった。急に腕を掴まれたまま壁に押し付けられて、月島の顔が目の前まで来た。


「…離してよ」
「嫌だよ。嫌いじゃ困る」
「は、何言って、」
「佐和には僕を好きになってもらわないと困るから」


その言葉の意味を尋ねようとしたとき、月島は掴んだわたしの手のひらにキスをした。


「ちょ、やだっ、」
「ねえ、知ってる?キスする場所には意味があるんだってさ」


言葉を発する間と間に二回三回と同じ場所へキスを落として、わたしを見下ろしながら物悲しそうに笑った。


「手のひらへのキスは、懇願のしるし。求愛のサイン」
「…求、愛…」
「私を好きになってくださいってこと」


そんなこと説明されなくたってわかる。何故今そんなことを、…そんなことをしながらわたしに教えるのかがわからない。それじゃあまるで。


「…月島が、わたしのこと好きみたいじゃん」
「だから言ったでしょ。嫌いじゃ困るんだって」


月島は、再びわたしの手のひらにキスをして、ぺろりと愛撫するように舐めた。驚いて空いていた手で止めさせようと腕を伸ばすと、月島の手にそれを拒まれた。


「伝わった?僕の言いたいこと」
「…む、むり、無理無理…!」
「今はそれでもいいから」


少し長くキスをされた手のひらから熱が伝わって、体が熱くなる。わたしを見下ろしたその顔があまりにも切なそうだから、目が離せなくて。


「…いつか僕を、好きになって」


胸が高鳴るのは勘違いだと、こんなやつを好きになるわけないと。…そう、信じたいのに、こんなに心臓がうるさいのはどうしてなんだろう。







鬼さんこちら、
さぁ「愛して


(追いかけていたはずなのに、)
(何時の間にか追い越して、捕まった)



続編:少しずつ侵食する