「ほい、佐和の分のアイス!」
手渡されたスイカを象った形のアイスを受け取ると、わたしと同じくらいの大きさの手に僅かに触れた。それだけで、少しどきっとするのはまさに思春期というやつだろうか。ああ、馬鹿らしい。
「ん?食わないのかー?」
「…食うよ、ありがと」
何も考えてないような顔が不思議そうにそう問うから、思わず口調も荒くなる。八つ当たり気味にアイスにかぶりつくと、奥歯がきーんと痛んだ。くそ、知覚過敏め…!痛みに必死に耐えていると、既に半分ほどアイスを食べていた西谷があたふたとしていた。
「わ!わ!」
「なに、西谷うるさい」
「アイス!溶けてる溶けてる!!」
指さされた先のアイスを見ると、雫が垂れ指と指の間に落ちて腕を伝った。
「あー!もったいねー!」
「いいよこれくらい…」
空いていた手で溶けたアイスの雫を拭うと、西谷は納得していないようにもごもごとさせたけれど、自分のアイスを口に詰め込んで呟いた。
「…お前さ、アイス食うの下手だな」
「…うっさいな」
「あ、ほらまた」
さっきよりも大粒の雫が二滴三滴と落ちてきて、仕方なくポケットの中のハンカチを探ると、西谷の指がわたしの肌を撫でてそれを拭った。
「ん、スイカバーもいいかもなぁ」
「…舐めんなよあほが」
それで終わればよかったものの、拭ったその指をぺろっと舐めた西谷は相変わらず何も考えてなさそうな顔で。さすがにイラっとしてチョップをかませば大袈裟に痛がった。
「なんだよいってえな!ふんっ!」
「いだっ!うわ、アイス落とした」
「わっはは馬鹿だ馬鹿だ!」
子どもみたいな反撃も笑顔も、怒りを通り越して呆れてしまう。けど、
「よっし、俺がまた今度アイス買ってやる!」
ぐしゃぐしゃに撫でられた髪が少し誇らしく感じるのは、これもやはり思春期という言葉で片付けようか。
おまけ
「俺たちってさあ、付き合ってるよな」
「…なに、いきなり」
「世のカップルは名前を呼び捨てにすると聞いた」
…誰に聞いたんだこのチビ。しかも妙にカッコつけてなに言ってるんだろう。返答に迷っていると、西谷の質問攻めは続いた。
「なんで佐和は俺のこと夕って呼ばないんだ?」
「いやいや、そもそも西谷も佐和って呼んでるじゃん」
「あ!そうだな!!」
うわー気付かなかったぜ、と狼狽える姿を見ていろいろと心配になったけれど、それはとりあえずおいといて。
「別に今更呼び方とか言ってもね。好きに呼べばいいじゃん」
「それもそうだなー」
うんうんと頷いて満足したように笑った西谷。…そういえば、名前で呼んだことないけど、どんな感じなんだろう。そんな好奇心から、三歩前を歩く西谷を呼んだ。
「……夕」
ぴた、と止まって振り向いたその顔は。
「…うわ、顔真っ赤」
「う、うるせえ!なんだよいきなり!」
「怒るなよ西谷」
「怒ってねえ!!」
なんだ、そんな顔もできるんだ。好奇心が優越感に変わって、二人の影が重なった。
(ほら、西谷も呼んでみ)
(………泰葉…)
(おいおい普段の大声は何処に)
(う、うっせえ!バーカ!)
(わっはっは、また顔真っ赤だ)