「澤村、リップとかしないの?」


昼食後、俺の机に顔をつけたまま佐和が問いかけた。


「しないけど…なんで?」
「端っこ切れてるべ」


ここ、と俺の口元に触れた手は細くて柔らかかった。触れられた部分をこすると、僅かに血がついた。


「気付かなかったな。持ってないし」
「ふーん。わたしの貸そうか」
「え…」


差し出されたピンク色のリップクリームを手にとろうか迷っていると、彼女は顔をあげて不思議そうに首を傾げた。


「塗ってあげよーか」
「え、いや」
「嫌?いらない?」
「あー…じゃあ、お願いします」
「がってーん」


俺の頬に手を添えて、丁寧に唇をなぞる佐和を見つめると、目が合って微笑まれた。


「夏でも乾燥することあるから、気をつけた方がいいよ」
「…そうなんだ」
「うん。よし、できた」


間接キス…とか、気色悪いか。馬鹿らしい。ついでにと言って自分の唇にリップクリームを塗ると、佐和は意味深に笑った。


「何?」
「ううん、間接チューしちゃったなぁって思って」


ね、と笑う彼女。それは天然か計算か、どちらでもかまわないけれど。


「…授業始まるまで寝る」
「ん、起こすからぐっすりどうぞー」
「…ああ、ありがとな」


きっと俺の顔は赤くなっているから。
机に突っ伏すと、耳元で聞こえた佐和のおやすみという声が奥深くまで響いて、俺の鼓動を早めるのだった。




(君はまるで、何も知らないテロリスト)


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