短編 | ナノ


04

「体育祭…まじで…俺リレーアンカー?」

信司はクラス会議で決まった、体育祭の種目結果を見ていた。

運動神経のいい信司は、ほとんどの種目にでることになったが、リレーのアンカーになるとは思ってもなかった。

学年混合で行われる紅白の学校祭だが、リレーだけは学年対抗である。人数は12人、その一年生枠に信司は入っていたのだ。そしてもう一つ、和田弥生の名も。

「和田って……」

「ぁ……そっか信司知らないのか、和田ってホントは一年生なんだぜ」

「え、でも二年の授業でてんじゃん」

「一年の授業じゃ物足りないって二年に混ざってんの、たまにちゃんと一年の授業にもでてるよ、クラスはBだったかな…」

この学校は成績順のクラスわけではない、成績がどのクラスも均等になるように生徒が分けられている。Bクラスのトップは弥生。Aクラスのトップは信司だ。

Bか…。と静かに呟きながら信司の心の中ではものすごく驚いていた。ずっと2年生だと思っていた弥生は意外にも隣のクラスで、同じ年齢とは思えないほど大人っぽい見た目と身長は、少なからず信司にショックを与えたが、微かに身近な存在となったことが嬉しく感じる。

それにリレーの枠にも入っているということは、一緒に練習もできる言うことだ…。と、なぜ自分は喜んでいるのか。信司は自分に戸惑いながら舌打ちを数度漏らした。

自分は彼が嫌いなんだ、顔だって合わせたくない。

しかし、もう一度リレー枠の第一走者の名を見ると、その心が揺らぐのを信司は感じていた。


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体育祭の練習も盛んになり、学校中がすでに体育祭ムードでいっぱいになるが、第一走者とアンカーである弥生と信司は直接バトンのやり取りをしないためか、滅多に話もしないままだった。

それに、生徒会の仕事も忙しいのか、隣のクラスだとわかって、信司はこっそり見に行くが、ここ数週間授業には出席していないとのこと。

放課後のリレー練習に出てくる弥生はどこか疲れたままの雰囲気で、信司はチラチラと心配そうに見ながら、声もかけられずにした。

目の下に微かに隈ができている。瞳も前ほど覇気がない。大丈夫だろうか。

嫌いなはずなのに弥生を心配してしまう自分に、信司は前ほど抵抗をしなくなっていた。

どこかほっとけないんだ。心配で。倒れたらどうしようとか、そんなことばかり考えてしまう。

大体、なんで律儀にリレーの練習なんか参加しているのだろうか。運動神経はかなり良いだろうし、多少練習しなくても大丈夫だと思うのだが。

どれだけ忙しくても欠かさず練習に参加する弥生に、信司の疑問は尽きなかった。

実はいい奴なんだろうか、ちょっと不器用なだけなのかもしれない。今までの観察結果なんかを思えば新しい結果だが、そうとも考えられる。

ムッと考えながらクラスTシャツの裾で、汗を拭う弥生を見ていた信司は、シャツが上がったことにより、ほんの少し見える弥生の腹筋にドキリとしてしまった。

改めて見れば、弥生は日焼けし辛いのか白い肌で、程よくついている腹筋はそれでも、ムキッとした印象よりは、細い感じがする。

ドキドキして仕方ない。信司はきつく胸を握ってまま、しゃがみこんだ。

息が上がる。走ったからだ!絶対に!そう言い聞かせ、後の練習に没頭した。

片づけもさっきのことがあり、無心でもくもくと進める信司は、バトンの束をまとめた筒を弥生が拾う前に、サッと拾う。

「…お前もう帰れよ」

信司は、疲れているであろう弥生に背を向けて言い放った。

弥生の顔を見ずに言ったため、弥生が何か言おうとしたことも知らぬまま、使っていた道具を持ってさっさと走っていく。

「……」

残った弥生は暫く、その筒を取り損ねた右手を見ていた。


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