※ヒロインはガゼルの義理の姉




「おかえり、ガゼル!」


今日の練習が終わりぐったりした身体のまま自分に割り当てられた自室へと向かう。戻ったらまずシャワーを浴びて、それからすぐに寝てしまおう。そう思う程何故か今日は疲れていた。そんな時に重い扉を開けて自室へ足を踏み入れると、待っていたのは満面の笑みを浮かべた、わたしの、


「…何の用ですか、義姉さん」
「ん、ガゼルを甘やかしに来ました」


ほら、おいで。そう言って座っているベッドの横をぽんぽんと叩くその人はみょうじなまえ。わたしと血は繋がっていないものの、わたしたちダイアモンドダストやプロミネンス、ガイアやイプシロンやジェミニストーム全ての子供たちの義理の姉となっている。特に彼女は何故かわたしの所へよく来るのであった。今日のように突然現れることもしばしば。


「疲れてますので、出て行ってください」
「やだなー、敬語なんか使わなくていいってば。私たち姉弟でしょ」
「…義理だけどね」
「そこ突っ込まないの」


一向に隣に向かわないわたしに痺れを切らしたのか義姉さんは立ち上がり此方へ近づくとわたしの頭に触れた。


「シャワー浴びたいんだけど」
「背中流してあげようか?」
「おかしなことを言う前に部屋を出て行ったらどうだい」
「だって今日はガゼルに会いたかったから」


最近ずっと練習で会えてなかったでしょ。そう言って笑う義姉さんに思わずきょとんとしてしまった。わたしに会いたいだなんてこの目の前の女は何処までおかしいんだ。物好きな奴だな。でも、まあ、嫌な気はしないが。わたしはさり気なく目を逸らしながら「そう」とだけ言って癖のある自分の前髪を弄る。義姉さんはわたしの頭から手を離した。


「でも明日はバーンのところに行かなくちゃ」
「え?」
「バーンも寂しがってる頃だろうし!グランは…瞳子ちゃんがいるか。まあそれでもそのうち会いに行くけど」


独り言のように言う義姉さんの言葉を聞いて胸がちくりと痛んだ。何故?分かってる、この理由がただの子供染みたものなんだってことくらい。


「…」
「だから今日はガゼルと一緒に…ガゼル?どうかした?」
「義姉さん」


前髪から手を離して重い腕を持ち上げ、わたしより少し背の高い義姉さんの背に腕を回す。少し力を込めると更に密着して、少し驚いたような声が上から降ってきた。


「珍しいね、ガゼルから抱きついてくれるなんて」
「悪いか」
「悪いなんて言ってないよ。ふふ、髪が擽ったいなあ」


そう言いながらわたしの背に腕を回す義姉さんの目には、今はわたししか映っていない。けれど明日になればそれは別の誰かに向けられてしまって、わたしではない別の誰かの名前を呼んでいる。こんなことを考えてしまうなんて本当に子供のようだ、けれど思わずには居られない。他の誰のところにも行かせず、義姉さんを独り占めしてしまえたらいいのに、と。


「今日はガゼルが寝るまで一緒に居てあげるよ」
「…それなら寝ないことにする」
「ガゼルは甘えん坊だなー」


ただ今だけは義姉さんの言葉はわたしにだけ向けられている。そう考えると口元が緩んだ。それを見られないように、わたしはもう一度、強く義姉さんの背に回した腕に力を込める。



りり様(ガゼル/甘/ガゼルの義理の姉)



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