※君と僕の一週間 番外編




なまえのストリートライブというものを見てから、俺はギターに少し興味を持つようになった。もちろんそんなすぐにできるようなものじゃないけれど彼女のギターを借りて少し練習させてもらっている。初めは構え方から、今はライブで聴いたあの曲を少しずつ教えてもらってるところだ。ギターは人に教えてもらうものではなく、ほとんど独学のようなもの。楽譜を借りてあとは只管指が覚えるまで弾くだけ。俺はそれを何度も繰り返していた。
どれくらい時間が過ぎただろうか、ふと顔を上げるとなまえが机に向かって何やら真剣に書き込んでいた。そっとギターを地面に置いて背後から彼女に近づく。するとそこには一枚の紙が置いてあって、綺麗な文字が並んでいた。


「何書いてるんだ?」
「うわあっ!?あ、あれ?一郎太、ギター練習してたんじゃないの?」
「してたけど顔あげたらなまえが一生懸命何か書いてたからさ」
「ああ…これのこと?」


なまえが紙を掴んで俺に手渡してきた。よく見れば誰かにあてた手紙のようにも見えるし、独り言のようにも見える。一体何なのかと聞く前になまえが口を開いた。


「詞を書いてたの」
「詞?…歌詞ってことか?」
「そうそう。シンガーソングライターってのに憧れててさ」
「なんだ?それ」
「んー、簡単に言えば自分で作詞して、作曲して、それを歌う人のこと。実はこの前歌ったあれ、あたしが作ったんだよ」
「え、なまえが作った曲なのか?」
「うん、作詞も作曲もあたし」


そう言ってにっと笑うなまえに俺は目を丸くするだけ。今練習している曲もあの曲なわけだが、これもなまえが作ったのかと思うとすごいと思うばかりだ。そう思いながら手元にある紙に書き連ねられた文字を見つめた。


「これにも曲がつくのか?」
「まだ分かんない。色々書いてみて、その中で一番ぱっとするのを使おうと思ってるから」


聞きながら目を通すと、その歌詞は少し物語性のあるものだった。「へえ」と小さく声を漏らしてから彼女にその紙を差し出す。


「すごいな。作家にでもなれるんじゃないか?」
「あはは、褒めすぎだよ。でもありがとう、嬉しいな」


なまえは俺が手渡した紙をもう一度机の上に置くと、片手にもっていたシャーペンを文鎮代わりにするように紙の上に置いた。それから腕を天井へと伸ばして大きく背伸びして、息を吐く。それから唐突に口を開いた。


「今度ね、一郎太のことを書こうと思うんだー」
「俺のこと?」
「そうそう。サッカー少年とギター少女のお話。なんか面白そうでしょ」
「…それを詞にするってことか?」
「うん、やってみようかなって考えてるとこ」


そういうなまえの目は何処か輝いていてとても楽しそうだった。それを見ていると俺も自然と頬が緩んで笑みが浮かぶ。音楽に関してのなまえはいつも本当に輝いている。サッカーをしている時の俺も、なまえのように輝いているのだろうか。


「完成したら一番に一郎太に見せるね」
「変なこと書かないでくれよ」
「何、変なことって。あたしはありのままのことしか書かないよー?」


一体何を書くつもりなんだと思いながらにやにやと笑うなまえに苦笑が漏れた。でもなまえが書くならきっと面白いものになるんだろう。完成したら一番に見たいし、曲もつくといい。それでなまえが前のようにライブで歌って、色んな人に聞いてもらえるものになればいい。どれくらい先か分からない未来を思って俺は胸が温かくなった。


「楽しみにしてる」


まだどうなるか分からない先の未来。俺はその時、なまえの傍に居られるんだろうか。そんなことを考えて、俺は床に置かれたままのギターへと視線を落とした。



さがら様へ(風丸一郎太/君と僕の一週間 番外編)



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