干し終わった洗濯物を畳みながら籠に置いていく。空を見上げれば快晴、洗濯日和!私は今サッカー部のみんなのタオルやユニフォームを洗濯しているわけですが、全部洗いたてで洗剤の香りがふんわり漂ってきた。
「タオルもふわふわだし、気持ちいいなー」
顔を埋めてみれば太陽の匂いがして思わず頬が緩む。サッカー部のみんなはこのふわふわなんてどうでもよくて、ただ汗を拭ければいいんだろうけど…私は違う。この洗剤の香りがとても好きなのだ。
タオルから顔を離して残りの洗濯も畳んでしまおうと干されたユニフォームに手を伸ばす。するとその背番号は私がよく知っている番号で。
「…あ、これ鬼道くんのだ」
普段は青いマントに隠されて見えない背番号。でも今ははっきりとそれを見ることができた。いつも鬼道くんはこれを来て練習しているんだなあとか考えると少しドキドキした。多分このユニフォームも他のタオルとかと同じ洗剤の香りがするんだ。それは分かっていたんだけれど、辺りを見渡して誰もいないことを確認してから私はそっと鬼道くんのユニフォームに顔を埋めた。鬼道くんの匂いなんて分からないけれど、さっきより心臓の音が更に大きくなった気がした。さあ、こんなところを誰かに見られる前に畳んでしまおう、そう思った時のこと。
「何をしている」
「うひゃあ!?」
飛び上がって振り向けばそこにはつい先程まで考えていた男の子が立っていた。突然のことに上手く話せない私は口を間誤付かせて目を泳がせる。
「あ、あの、その、これは、その、つまり…」
「俺のユニフォーム…か?」
「ごご、ご、ごめんなさい!いい香りだったから、その、ついっ…」
弁解にも何にもなっちゃいない!ゴーグル越しにじいっと私を見つめる鬼道くんの視線が痛くてそっと俯いた。ああ、絶対気持ち悪いやつだとか思われてしまった。どうしよう、もう生きていけない。そう絶望的な気持ちになっていると鬼道くんが一歩ずつ私に近寄って、未だ私が握ったままのユニフォームの端を掴むとそれを顔に近づけた。
「…え?き、鬼道、く、」
「洗剤の匂いがする」
「そ、それは…今、洗ったところだから…」
「確かにいい香りだな」
顔をあげてふっと笑う鬼道くん。その表情に少しずつ頬が熱くなっていく。鬼道くんは私の頭の上に手を置くと優しく撫でてくれた。
「タオル、一枚借りていくぞ。練習に使いたいからな」
「へ?あっ、ああ、はい!どうぞ!」
それだけ言うと鬼道くんは私の隣に置いてあった籠からタオルを一枚取って踵を返し、歩いていってしまった。何だったんだ、今のは。彼の行動の意図を掴むことができない。けれど私の胸は、さっき鬼道くんのユニフォームに顔を埋めていた時の何倍、何十倍もドキドキしていた。
蒼紅様へ(鬼道有人/指定無し)
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