「土門の身長10センチ分けて」
「お前また無茶なこと言うなあ」


静かな図書室で私は両手のひらを上に向けて頭何個分と高い土門飛鳥に突き出した。呆れたように溜息を吐き出す彼に対し私はむっとするだけである。


「なんで急にそんなこと言うんだよ」
「届かないの」
「何に」
「あれ」


そう言って私が指差したのは土門の後ろの本棚の一番上の棚。土門は私の指の先を目で追ってから視線を戻す。それからもう一度自分で私と同じ方向を指差した。


「あの本?」
「そう、あの一番上の本。あんな高いとこにあったら届かない!」


目的の本をじいっと睨みつけていると、その背表紙に土門の指が掛かって糸も簡単にそれを引き抜いた。「え」と声を上げた次に私の前にあったのはさっきまで見上げるばかりだった本が私が見下げられる位置に来ている。


「これであってる?」
「え…あ、ああ、うん…あってるけど…」
「そ。よかった」


そっと土門の手から本を受け取って彼の顔を見ればにこにこと笑顔を浮かべていた。


「身長10センチあげることはできないけどさ」
「え?」
「呼んでくれたらなまえのこと助けるよ。今みたいに困ってる時とか」


だから好きな時に呼んで。そう言う土門に不覚ながら胸が高鳴ってしまい、私は受け取った本で顔を隠した。ああ、悔しい、今の私の顔は絶対、真っ赤だ。


「…なに、どうしたの」
「なっ、なな、なんでもない!こっち見ないで!」
「そう言われると見たくなるよなあ…」
「見るなって言ってるでしょ馬鹿土門!」


私に手を伸ばす土門に背を向けて此処が図書室ということも忘れて私はその場から逃げ出した。後ろから楽しそうな笑い声と私以外の足音がする。
土門に捕まってこんな顔見られたら恥ずかしくてたまったものじゃない!私は土門に手渡された本をぎゅうっと握ったまま、彼に追いつかれないように必死に廊下を全力疾走した。


(それでもあいつは足も長いわけだから、すぐに追いつかれてしまったわけですが)



^^様(土門飛鳥/甘)



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