※アメリカでのお話。13歳くらい。




俺の心を支配するのはもやもやした嫌な感情。けれど俺の顔に浮かんでいるのはにこにことした笑顔。矛盾?そんなの今に始まったことじゃない。それは目の前の女の子、みょうじなまえも十分分かっているはずだ。


「ずいぶん素敵な招待状をもらったんだね、なまえ」


俺の手のうちでヒラヒラと揺れるのは一枚のメモ。それは本来なまえのものであり、俺が彼女から奪ったものだ。…否、奪ったというのは些か語弊がある。正確には彼女の机の上に置いてあったのを見つけて、奪い返そうとした彼女から取り上げた。何度も読んでは苛立ちを増幅させるしかない文章に俺はもう一度目を通す。


「ホームパーティーかあ、楽しそうだよね。あ、今晩って書いてあるよ」
「か、一哉、くん…」
「で、場所は何処だって?」


にっこり笑いながらメモから頬を引き攣らせたなまえへと視線を移す。そのメモは未だ俺の指先にあるままだ。


「俺には男の子の名前に見えるんだけど」
「…そう、です…」
「ふーん。クラスメイト?」
「うん…」
「へえ。で、なまえはこのこと俺に隠してたんだ」
「か、隠してなんか、」
「じゃあなんで言わなかったんだよ」
「それは…」


言葉を濁らせるなまえ。その動作さえも俺を苛立たせるだけで、俺は貼り付けたような笑みを崩すことはしなかった。一歩彼女に近づいてその顔を覗き込む。


「なまえ、女の子が男の子の家に行くってどういうことか分かってる?」
「そ、そんなのじゃないよ!だってホームパーティーだよ?みんなで騒ぐだけで、」
「じゃあ絶対そんなのじゃないっていう保障、できる?信じきれる証拠でもあるわけ?」
「証拠…とかはないけど、そんなつもりで私を呼ぶわけ、」
「なまえ、」


俺は彼女の後ろにあった壁に腕を突いて一気に距離を縮めた。俺はいつしか笑顔を崩し、むっとした表情を浮かべてなまえを見ている。驚いたように目を丸くする彼女に言葉を投げかけた。


「男ってそういうもんだよ。その気になればパーティーだろうが何だろうが、何処でもそういうことできるんだ」
「そ、そんなこと…」
「なまえ、頼むから行かないで。君が傷付くようなところ、見たくない」


純粋で真っ直ぐな彼女は人の汚れた部分を知らない。そんな彼女に知って欲しいとも思わなかった。壁との隙間に手を回して彼女の後頭部を引き寄せた。すると俺の背に彼女の腕が回って、耳元にくすくすという笑い声が届く。


「一哉くん、私、行くなんて一言も言ってないよ」
「…え?」
「メモもらって、机の上に置いといただけ」


そっと彼女から離れるとさっきの俺と同じようににこにこと笑顔を浮かべていた。今度は逆に、俺が驚く番。


「じゃあなんで隠したんだよ」
「行くつもりなかったから言わなかっただけ。…それに男の子にパーティーに招待された、なんて言ったら一哉くんそれだけで怒るでしょ」
「まあ、確かに誘った相手の顔くらいは見に行くけど」
「何するか分かったもんじゃないし」


一哉くん実は怖いもんねえ。そう言いながら苦笑するなまえ。でも行くつもりはないとはっきり言ってくれたことが俺には嬉しくて思わず頬が緩んでいく。さっきみたいな貼り付けた笑顔じゃなくて、ほっと安堵の笑みを浮かべた。


「よかった、なまえが行かなくて」
「パーティーに行くなら一哉くんも誘うよ」
「本当?俺がボーイフレンドだってみんなに紹介してくれる?」
「…しなくてもみんな知ってると思うけど」
「じゃあ紹介しに行こっか、俺がなまえのボーイフレンドだよって!」
「え?い、いや、だから私、行くつもりは…」
「いいからいいから。行くよ、なまえ!」


俺はなまえの額に触れるだけのキスをしてその腕を掴むとぐいぐいと引っ張った。後ろから慌てたような声が聞こえてくるけどそんなのはこの際気にしない。ちょうどなまえを誘った男の子の顔も見れることだ、虫除けにもなるし楽しめるし、一石二鳥じゃないか。そう思った頃にはもう胸の中を支配するのはもやもやなんかじゃなくて、なまえと二人でパーティーにカップル参加できるっていう幸せな気持ちだけだった。


(それに主催者の男の子に、なまえは俺のものなんだってはっきりアピールしておかないとね)




空様へ(一之瀬一哉/指定無し)



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