「お疲れー、綱海」
「おう、サンキュ、なまえ」


俺、立向居勇気はそんなやり取りをすぐ傍で見ていた。綱海さんにドリンクを手渡したみょうじなまえさん、彼女は綱海さんと同じく沖縄からこのキャラバンに参加してマネージャーとして俺たちをバックアップしてくれている。そんなみょうじさんは綱海先輩ととても仲が良かった。


「綱海、顔拭いてあげるからじっとしてて」
「おわっ、やめろよ!それくらい自分でするって」
「いいからいいから。はい、大人しくなりなさーい」
「俺は餓鬼かよ!」


いつもはお兄さんみたく頼りがいのある綱海さんもみょうじさんの前ではまた別の顔を見せていた。幸せそうに笑いあう二人を見て、なんだか俺まで胸が温かくなる。綱海さんより先に渡されたタオルで自分の顔を拭って二人に笑いかけた。


「綱海さんとみょうじさんはいつも仲良くて素敵なカップルですね」
「え?」
「カップル?」


途端きょとんとした表情をして俺を振り返る綱海さんとみょうじさん。…あれ?俺は何かおかしなことを言っただろうか。


「綱海、立向居くん、今私たちのことカップルって言った?」
「…そうみたいだな」
「えっ、そうですよね?」
「いや、そりゃ間違ってる」
「私たち付き合ってないよ」


ねー。平然と言ってのけるみょうじさんに俺は唖然とするしかなかった。えっ、それなら聞きたいことがたくさんあるんですけど。


「で、でもさっきも綱海さんの顔拭いてたりとか」
「綱海とは小さい頃からずっと一緒だし。前から結構やってたよね」
「そうだなあ。よく一緒にいたし」
「ふ、二人でいるとすごく幸せそうじゃないですか!」
「そりゃあ幼なじみみたいなもんだから、一緒に居て落ち着くからだよ」
「つーか幸せそうだったのか、俺たち」
「そうかな?」


付き合ってるような素振りをしていたのに、付き合っていなかった。ただの幼なじみだそうだ。綱海さんもみょうじさんもお兄さんお姉さんって感じで俺は慕っているけれど、ああ、そうか、二人ともスキンシップが激しいだけなんだ。幼なじみだしそういうことをしてもそう気にならないんだ。俺は無理矢理納得させる。だって俺の中の当たり前では、その、そういうことをするのは恋人同士になってからが当たり前で、でも二人の間ではそれが当たり前じゃない、と。


「あー、でもよ」
「ん?なに、綱海」
「俺、なまえとだったら付き合ってもいいぜ。すごく気楽だろうし、何より一緒にいて楽しいしな」
「え、綱海さん…?」


綱海さん、今、何て言いました?俺の目の前でさらっと、え、みょうじさんに告白?今のって告白ですよね?


「わ、奇遇。私も綱海とだったら付き合っていいかなって思ってたんだ」
「なまえもか?じゃあ付き合おうぜ、今までとそんな変わんねえだろうけど」
「うん、いいよ」
「ちょっ、まっ…え?あれ?」
「というわけで立向居くん、私たち付き合うことになりました」
「そ、それでいいんですか…?」
「ん?こういうもんだろ、告白って」


こんなに、あっさりと、簡単にしてしまうものだったか。ああそうか、だから俺の当たり前と二人の当たり前はまた違うんだ。俺の価値観を押し付けちゃいけない。一人一人考えが違うのはそれこそ当たり前のことだし、二人にとってはこんなことどうってことないのかもしれない。
俺の目の前でにこにこと笑いあう綱海さんとみょうじさんは俺と違って大人なんだなあ、と、思い込むことで納得することにした。



藤田音袮様へ(綱海条介/甘/友達以上恋人未満)



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