「佐久間の見える世界は、私の半分なの?」


口を開いたかと思えば唐突に問うてきたのは目の前の女子、みょうじなまえ。ただのクラスメイト以上、恋人未満。そんな曖昧な関係の俺たちは、二人して授業をサボっていた。正確には授業に出ようとしたところをみょうじに誘われそれに乗ってしまった。そういえば今の授業なんだっけ、ああ、数学だ。ならいいか。そう自己完結している時に冒頭の一言。意味が分からず首を傾げながら隣に座るみょうじに視線を向けた。


「どういう意味だ?」
「眼帯」
「は?」
「眼帯してるでしょ、佐久間って。だから片目しか見えないわけじゃん」
「まあ、そうだけど」
「だから、眼帯してない私と違って、見てる世界は半分なのかなって」


みょうじが不思議なことを言い出したのは今に始まったことじゃないけれど、それにしても俺は毎回こいつの不思議な発言に驚かされるばかりだ。


「どうだろうな。眼帯つけるようになって結構長いから、つけてない時のことなんて忘れた」
「そうなんだ。不便な時とかってないの?」
「ない。慣れたから」
「慣れでなんとかなるもの?」
「人間そういう生き物なんだろ。適応能力に優れてる、だっけ」
「へえ、難しいこと知ってるんだね、佐久間って」
「この前の理科の時間に聞いた気がする」
「そうだっけ」
「俺の記憶が正しければ」


じゃあ間違ってるよ。そう平然と言い放った彼女を恨めしげに睨み付けてやった。「片目だから怖くないよ」なんて、じゃあ両目だったら怖いのかと屁理屈を飛ばしてやりたい。けれどそれはあまりにも幼稚な気がしたので、やめておいた。


「ねえ佐久間」
「今度はなんだよ」
「私が佐久間の片目じゃ不安?」


またすっ飛んだ話になった。なんとかついていこうと脳みそを総動員させているとずっと空を見ていたみょうじが此方を見て、その瞳に俺が映った。


「佐久間がまだ見てない世界を、私が映すの」
「俺は全部見えてるぞ」
「それって本当に全部かな」


そう言うみょうじが少し俺に身体を寄せる。コンクリートの地面についた腕が焼けた俺の肌と比べてとても白いなと思った。ああ、つまり、こういうことか。


「意外だな、お前がそういうこと言うなんて」
「佐久間だからね」
「なら、俺がみょうじの知らない世界を見せてやるよ」
「それは楽しみ」


耳に届いた笑い声はとても柔らかい。みょうじの頬に手を伸ばして、ゆっくり閉じられたその瞼をそっとなぞった。


「じゃ、これから私の右目は佐久間の右目でもあるんだね」
「なんかそんな感じの話、前に社会で聞いた気がする」
「あー、それもきっと佐久間の記憶が間違ってるんだよ」
「相変わらず失礼なやつだな、お前。っていうか本当記憶力ないな」
「失礼なのはそっちも変わらないんじゃない?」


そう言って開かれた瞼の中にあった瞳が俺を捉え、口角が上がりにっと笑みを浮かべた。瞼に触れていた手を、するりと滑らせて、そのまま彼女の唇に、触れる。


(私が知らない)(俺がまだ見てない世界)
(それは、クラスメイト以上恋人未満の先の関係)



水稀様へ(佐久間次郎/指定無し)



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