私は今、一之瀬一哉くんの部屋に遊びに来ていた。一応私の自慢の彼氏であり、優しくてかっこよくて、女の子たちにとても人気なのである。そんな彼の部屋に遊びに来られるのは彼女である私の特権であり、それがなんだか幸せだなあと思いながらにやけていると、私の横に座っていた一之瀬くんが不思議そうな表情を浮かべて私を覗き込んでいた。


「何にやにやしてるの、なまえ」
「えっ、い、いや!なんでもないよ!」
「ふーん、ならいいんだけど」


にこり、そう笑う一之瀬くんは今日もかっこいいなあ。でもその笑顔に少し違和感を覚えた。じっとその顔を見ているとその違和感が一体何なのかなんとなく予想がつく。少し顔を近づけると一之瀬くんは驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。


「なに?」
「…もしかして一之瀬くん、眠い?」
「え…」


いつもはぱっちりと元気よく空いている目に違和感を感じたのである。うとうとと瞼が揺れている彼は暫く気まずそうに目を逸らしてから苦笑を浮かべた。


「…少しだけ」
「昨日あんまり寝てないの?」
「寝たはずなんだけどな」
「わ、私といるのがつまらないとか…!」
「ちっ違うよ!」


慌てたように首を振る一之瀬くんにほっと安堵の息を吐く。すると一之瀬くんの腕が私の背に回されてぎゅうっと抱きしめられた。


「なまえといると、なんだか安心しちゃって」
「安心?」
「ほっとするっていうのかな。それで、さっきから少しうとうとしちゃって。ごめんね、折角遊びに来てくれてるのに」


なあんだ、そういうことか。そう言われて悪い気はしなかった。むしろ嬉しくなってまた頬が緩んでいく。一之瀬くんの背に私も腕を回して、その背をゆっくり撫でた。


「ううん。なんなら寝ていいよ、私は大丈夫だから」
「でも…」
「起きるまで一緒にいてあげるし」


ね?そう言うと一之瀬くんが離れて「それならお言葉に甘えて」と笑みを浮かべる。一之瀬くんの寝顔が見れるなんて貴重だなあ、そう思っていると不意に身体が浮いて、次の瞬間背中に感じたのは柔らかい感触。そして私の横には一之瀬くん。


「え?あれ?」
「なまえも一緒に寝ようよ。そしたら退屈しないでしょ」
「えっ、い、いや、私は…」


ぎし、とベッドのスプリングが鳴って私と一之瀬くんに布団が掛けられる。そこから一之瀬くんの匂いがしてどきっと胸が高鳴った。え、え、何この状況!


「…眠くなかったら色々したいことがあるんだけどなあ」
「い、色々…!?」
「うん、色々。…でも今回はこれだけで我慢するよ」


そう言って私の額に触れる一之瀬くんの唇。ちゅっとリップ音が耳に届けば途端に熱くなる私の頬。非難の眼差しを向ければ楽しそうに一之瀬くんが笑って、彼の腕に引き寄せられた。一之瀬くんの温かくて優しい手が私の後頭部をゆっくりあやすように撫でる。全然眠くなかったはずなのに、少しずつ私にも睡魔が近づいてきたようで。


「あ、なまえも眠くなってきた?」
「一之瀬くんが撫でるから…」
「はは。それってなまえもほっとしてるってことかな」


瞼がもう半分閉まりかけている。一之瀬くんの胸元に擦り寄ると全身を彼に包まれているような錯覚に陥った。それが幸せで口元が緩む。眠りに落ちる寸前、私はゆっくり口を開いた。


「一之瀬、くん…」
「ん?」
「おやすみ…なさい…」


夢の世界に旅立つ直前に聞いたのは、優しくて私の大好きな彼の声。



チタ様へ(一之瀬一哉/甘々)



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