「なまえさん!あ、ああ、あの、ちょっといいですか!」


名前を呼ばれ顔を上げた先に居たのは真っ赤な顔をして私に話しかける立向居くんだった。特に今は用事がない私は持っていた手帳から顔を上げてにっこり笑いかける。


「はい、どーぞ」
「あっ、ありがとうございます!えっと…その、ですね…」


もじ、もじ。指先を合わせて俯きながらごにょごにょと口を間誤付かせる立向居くんは相変わらずのようだ。彼は私の可愛い後輩であり、弟のような存在。でも時折見せる男の子らしい表情だとか、嬉しそうな表情だとか、そういったところが私の心を捉えて離さないのだ。私は彼が口を開くのをじっと待った。


「あ、の!こ、こん、今度の休み!土曜日でも日曜日でも…どちらか、その、空いてますか!」
「今度の土曜か日曜?」
「はいっ」


目を輝かせる立向居くんの表情から手元の手帳へと目を走らせる。今度の週末は…あ。


「土曜日も日曜日も塾行かなきゃ。もうすぐ受験だし」
「あ…そう、ですか…」


途端しゅん、と項垂れる立向居くん。私はこれでも受験生なわけで、三月の中旬には本命の高校を受験することになる。この時期に塾をサボることはできない。申し訳ないけれど、週末は空けられそうになかった。


「なまえさんは受験ですし、仕方ないですよね!ま、また次の機会にでも…」
「立向居くん、今日の練習終わった?」
「へ?」


私はふといいことを思いついて彼に尋ねた。きょとんとする立向居くんはゆっくりと首を縦に振って「終わりました、けど」と言葉を返してくる。それならちょうどいい。立ち上がって立向居くんの腕を掴むとずんずんと前に進んでいった。私も立向居くんも、未だに制服のままだ。


「わっ、ちょ、ちょっと、なまえさん!」
「今からデートしよう」
「え、ええ?」
「私、今は空いてるから」


少し強引ではあるけれど、実際部活をしている立向居くんと時間を合わせるのはなかなか難しいものである。だから偶然にも空いた時間が合っている今こそちょうどいいのだ。肩越しに振り返ると驚いたような表情を浮かべた立向居くんが見えた。


「制服デートって青春って感じだよね、立向居くん」
「っ…!」


そう言ってみせれば耳まで真っ赤になる立向居くん。これじゃどっちか男の子だか分からないな、そんなことを考えたけれど気付けば立向居くんの指が私の其れと絡まり、ぎゅっと握られる。そんなところは男の子で、ごつごつした手も男の子だった。手のひらから伝わる熱がとても熱くて、彼の熱が伝わって、私の頬まで赤く染め上げていく。



白狗様へ(立向居勇気/指定無し)



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