「い、嫌だあ!士郎!」
「ほら、そう言わずに」
「士郎様やめて!やだ!無理!まじで無理!」
「大丈夫大丈夫、落ちやしないよ」
「うわああ助けてアツヤああああ!!」
「アツヤも乗せてやれってさ」
「裏切り者め!」


さっきから行われているやり取りにその場にいる誰もが目を瞬かせるしかなかった。ナニワランドの観覧車の前、係員までもきょとんとしているのに対し吹雪士郎は私、みょうじなまえを担ぎ上げて「この子も乗るんで」と爽やかな笑みを浮かべた。嫌だ嫌だと拒絶しても最終的に観覧車の小さな一室に投げ込まれ私の背後てがしゃんと絶望的な音がする。慌てて窓から外を見ると、私はすでに地上から少しずつ離されていった。


「わっ、わ、わたっ、私が高いところ駄目って知ってるでしょ!」
「うん、幼なじみなんだから、なまえちゃんが怖いものくらい知ってるよ」
「じゃあなんで観覧車なんて恐ろしい物に乗せるの!」
「僕が乗りたかったから」
「一人で乗ればいいじゃん!」
「嫌だよ、一人で乗っても面白くないし」
「アツヤがいるでしょ!」
「男二人で観覧車ってのはちょっと」
「馬鹿士郎!」
「それに乗るなら好きな子と二人がいいから」


ね。そう言ってまた爽やかな笑みを浮かべる士郎に私はただ頬を染めるしかなかった。ああ、もう、こういうところはずるい。少し胸がきゅんっとしたけれど次いで目に入ったのは観覧車の窓からの風景。ああ、地上があんなにも、遠い。


「うわああ…!もう、もうやだ…!」
「外見なかったらいいんだよ。そしたら観覧車って気はしないでしょ」
「もう見ちゃった!」
「じゃあ忘れよう」
「無理!」
「あ、もうすぐ一番上だよー」
「思い出させてるの士郎じゃん!」


一番上!上とか!泣きそうになるのを精一杯堪えてぐっと金属の床を見つめた。「そろそろかな」と士郎が呟くのを聞くと不意に中が揺れる。「ひっ」と小さく悲鳴を上げると床に座り込んだままの私の前に士郎がしゃがんだ。


「ゆ、揺らさない、で…!」
「あはは、ごめんね。なまえちゃん、僕の我儘に付き合ってくれてありがとう」
「へ…?」
「本当はこれがしたかったんだ」


そう言って士郎は私の後頭部に手を回して少し引き寄せて、私の唇に触れるだけのキスをした。どうやら此処は観覧車の一番上らしく、隣からはしゃがんでいる私たちは見えないみたいだ。触れるだけで離れていった士郎に呆然とするばかりの私ににっこりと笑いかける。


「折角遊園地に来たんだから試しとかないとね」
「な、に…?」
「おまじないというか、言い伝えというか」


私を落ち着かせるように背中を撫でてくれながら士郎はゆっくり話し始めた。


「観覧車の一番上でキスをしたカップルは、永遠に一緒に居られるんだって」
「え?」
「これでずっと一緒に居れるね、なまえちゃん」


嬉しそうに笑う士郎ときょとんとするばかりの私。少しずつ言葉の意味を理解すると恥ずかしいのと嬉しいのとで何とも言えない気持ちになって震える腕を彼の背に回した。


「馬鹿士郎」
「怖い思いさせてごめんね」
「…嬉しいから許す」


そう言えば士郎はくすくすと笑って私の額にキスをした。「大好きだよ」という言葉も忘れずに。


(ね、もう一回乗る?今度はアツヤと)(絶対嫌!)



沖原様へ(吹雪士郎/幼なじみ/甘め)



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