今日も私の王子様はかっこいい。そう思いながらグラウンドの隅でサッカー部の練習を見ていた。私の意中の人、それは豪炎寺修也くん。雷門中サッカー部のエースストライカーであり、シュートを決める時、ボールを繋ぐ時、全てが輝いて見える人なのだ。今も彼はサッカー部の面々と一緒にボールを蹴っている。その姿を見ているだけで至福のひと時を過ごすことができる私は、とても幸せ者なのだ。


「かっこいいなあ、豪炎寺くん…」


一応彼とは同じクラスなんだけれど、私が話しかけていいような人じゃないと思って結局話したことはなかった。彼を好きな女の子はそれこそたくさん居るし、豪炎寺くんの周りは可愛い子でいっぱいだ。私なんかが行っても悲しくなるだけ。そう思うと晴れ晴れとしていた気持ちが少し下がってしまう。豪炎寺くんとお話したいなあ。そう思うのは欲張りなんだろうか。
俯いていると不意に爪先にあたった一つのサッカーボール。ああ、練習中のが転がってきたんだな。籠にしまっておこうか。そう思いそれを手に取って顔を上げる。と、私の方に近寄ってきていたのはまさに豪炎寺くんだった。え、え、まさか近くに私以外の誰かが居るとか?そう思って辺りを見渡したけれど誰もいないようだ。私の耳に、大好きな憧れの豪炎寺くんの低い声が届く。


「すまない、一年が飛ばしてしまったんだ」
「へ?」
「そのボール」


豪炎寺くんが指差すのは私の手の中にあるボール。彼の後ろの方で「すみません!」と叫んでいるのは小さな一年生の男の子。このボールは豪炎寺くんが練習していたボールだったのか。それなら早く返さないと!そう思いながら慌ててボールを突き出した。


「う、ううん!大丈夫!どうぞ!」
「…ああ、助かる」


あまりに勢いよく私が差し出したためか少し驚いた様子の豪炎寺くん。それでも私の手からボールをゆっくり受け取った。一瞬触れた指先は男の子の手って感じで、温かかった。もうボールも取ったし行ってしまうんだろうな。それでも言葉を交わすキッカケをくれたボールとあの一年生の子に感謝しなくちゃ。そう思っているとまた豪炎寺くんの口が開かれた。


「お前、みょうじだよな。同じクラスの」
「え?…あ、ああっ、はい!そう、です」
「サッカー好きなのか?」
「…私が?」
「いつも見てるだろ、練習」
「!」


ば、バレてたのか!どうしようもなく恥ずかしくなって上手く話せなくなり「ええと」だの「その」だの口を間誤付かせる。ああ、いつも豪炎寺くんを見ていたのがバレてしまう。恥ずかしい、明日からどんな顔をすれば!そ、それより先にいつも見ていたことを謝らなければ!顔を上げた先の豪炎寺くんは、私の予想に反して、優しく微笑んでいた。


「見たいならもっと近くで見ればいい」
「えっ…」
「じゃあな」


それだけ言ってフィールドへと戻っていった豪炎寺くん。一年生の子が「すみません、豪炎寺先輩!」ともう一度謝った。後輩にも慕われる豪炎寺くんはやっぱり私の憧れで、いやでも、今ので憧れの域は飛び出てしまった。見たことのなかった豪炎寺くんの笑顔。それから優しいところ。赤くなる顔を両手で押さえながら誰にも聞こえない程の声で小さく呟いた。


「好きです、豪炎寺くん」



相馬様(豪炎寺修也/片想い)



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