「一之瀬、口開けて」


唐突になまえがそう言ってきた。何をするんだろうと思いながらも言われる通りに彼女の方を向いて口を開く。すると俺の口に滑り込んできたのは甘い果実。


「ん」
「私、苺好きじゃないんだよねー」


真っ赤な苺は俺の咥内に自然な甘さを残して消えていく。なまえはと言えば真っ白になってしまったショートケーキをまた一口運んで、もぐもぐと幸せそうに頬を緩めた。


「女の子で苺好きじゃないって珍しいね。みんな好きなんだと思ってた」
「食べられないわけじゃないんだけどさ。すっぱいのとか無理」
「今の甘かったよ」
「このクリームより?」
「それはないけど」


じゃあいらない。そう言ってまた一口。ふと彼女の方を見れば口元にクリームが。これはベタな展開だなあと思いながらも実行せずにはいられない自分がいるわけで。


「なまえ、クリームついてる」
「え、どこどこー」
「ここだよ」
「!」


ぺろりと舌先でそれを舐めとれば次第にさっきの苺みたく頬を赤らめるなまえ。「ベタすぎる!」そう言いながらも照れている彼女は可愛いなあと思い、ふと悪戯を思いついた。


「ねえなまえ、いちごがクリームより甘く感じる方法教えてあげようか」
「え、何それ。そんなのあるの?」


そう言って不思議そうにするなまえの後頭部を引き寄せてその可愛らしい唇にキスをする。最初は触れるだけ、でも次第にそれを何度も繰り返し、繰り返し。舌先でなまえの下唇を舐めると驚いたように薄らと開かれたそこに舌を入れて、逃げ惑う彼女を絡めとる。なまえの口から零れる声が俺を痺れさせるのは時間の問題で、加減なんて全然できなかった。緩く肩を押されてさすがに苦しくなったかと名残惜しく思いながら吸い付くようなキスを一度残して離れる。なまえの顔は赤くて、息を切らせるその表情はとても艶やかだった。


「はぁっ…は…一之瀬の、馬鹿…!」
「でも甘かっただろ?」
「味なんか分からなかったよ!」
「俺は甘かったけどなあ」


こつんと額を合わせてなまえの後頭部を撫でた。至近距離で見つめていればまた濡れた唇に目が行って、俺は自分の理性ががらがらと崩れていく音を何処か遠くの方で聞いた。


「なまえ、もう一回」
「う、え!?も、もう無理、」
「やる前から無理とか言わなーい」


そう言ってまたなまえの唇にキスをすれば、もう俺はただの獣と化してしまうというわけである。



愛華姫様へ(一之瀬一哉/甘)



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