「なまえさん、なまえさん、」


小さく情けない声を出すのは私の可愛い後輩であり、恋人でもある立向居勇気くん。私の背に腕を回してぎゅうっと抱きついたままの彼から私が逃れられるはずもなく目を泳がせながらされるがままになっていた。抵抗してもよかったのだけれど、あまりに弱弱しい声を出す彼を引き剥がすのは、なんとなく酷に思えて。


「どうしたの、立向居くん」
「なまえさん…何処にも行かないでください」


抱きついていることもあり彼の表情を窺うことはできない。それでも不安そうに震える声は何かを訴えているようで、私は唯一自由な手で優しく彼の頭を撫でた。驚いたのか立向居くんの肩が一度大きくびくりと震えたけれど、それも一度だけですぐ大人しくなった。


「何処にも行かないよ?」
「…」
「どうして急にそんなこと言うの」
「だって、なまえさんがっ…」


あなたが悪いんです。そう言って立向居くんはようやく顔を上げた。その表情はとても悲しげで見ている私までぎゅっと胸を締め付けられた。彼にこんな表情をさせているのは私なんだろうか。そう思いながら彼の頭から手を離す。


「私が…何?」
「…すごく楽しそうに、円堂さんと話してたから」


そういえばさっきキャプテンにサッカーの話を持ちかけられて、それがすごく面白かったから少し話しこんでしまっていたなあ。ぼんやりと考えていると立向居くんの手が私の頬に伸びて、壊れ物でも扱うかのように触れる。その手はごつごつしていて、とても熱くて、私の手とは全然違っていた。


「俺、円堂さんのことは心から尊敬してます。本当にすごい人だと思ってますし、俺もいつか円堂さんみたいな人になりたい」
「…うん」
「でも…だからこそ心配なんです。いつかなまえさんが円堂さんに取られちゃうんじゃないかって。まだ未熟な俺を置いて、何処かに行っちゃうんじゃないかって」


揺れる瞳には不安がいっぱいだった。必死な立向居くんには悪いけど、私は今の言葉が嬉しくて可笑しくて仕方が無かった。自然と口角が上がって笑みを浮かべる。もう一度立向居くんの頭に手を乗せた。


「私が好きなのはキャプテンじゃなくて立向居くんだよ。一生懸命頑張ってる立向居くんが好きなんだ」
「…本当、ですか?」
「うん。だから心配しないで、私はずっと立向居くんと一緒にいるよ」


そう言えば立向居くんの表情が嬉しそうに緩んで、いつものような明るい笑みを浮かべた。それから私の頬に触れたままの手で私を引き寄せて、唇に触れるだけのキスをしてくれる。私は、立向居くんだから好きなんだ。努力家で、何に対しても一生懸命で、笑顔がとっても素敵で。他の誰も持ってない魅力がある彼が好き。


「ありがとうございます、なまえさん。俺、なまえさんが大好きです!」


こうして私は、昨日よりももっと彼のことが好きになっていく。




シオン様へ(立向居/甘/嫉妬/恋人設定)



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