俺は別に変態じゃなければ変なプレイを望んでいるわけでもない。ただ些か言葉だけでは語弊があるということで、先に言っておいた。


「にゃあーにゃあー」


俺は別になまえに猫になれだなんて言ったわけじゃない、と。けれど彼女はひたすらに猫の鳴き声を真似しては頬を緩めている。何故か。それはなまえの前にちょこんと座っている子猫に向けてのものだった。
俺は今なまえの家に来ている。彼女の家だからなんとなく緊張するなと思っていたんだが、そんな必要こそ皆無だったらしい。なまえは快く俺を迎えてくれた。彼女が猫を飼っているというのは以前聞いていた話だったから知っていたけれど、まさかこんなに溺愛していたとは思いもよらず。


「風丸ー可愛いでしょー。ごろごろ言ってるんだよー。えへへ」
「あー分かった分かった」
「もーっ、なんでこんなに可愛いのかなあ!」


猫最高!そう言って子猫の喉を擽っているなまえ。その光景は微笑ましいものではあったものの、俺の気分は下り坂になる一方だった。折角彼氏となまえの部屋に二人きりだというのになまえは猫ばかり構って俺のことなんてまるで眼中にない。まったくもってつまらない。


「なあなまえ、もう猫はいいだろ」
「にゃあーにゃあー」
「…おい、聞いてるのか?」
「にゃあーっ」


とうとう無視か。此処までくると苛立ってくる。わざと聞こえるように溜息を零しても彼女は聞いちゃいないのか猫と戯れていて、俺は行動に移ることにした。立ち上がりなまえの細い腰を両手で掴むと後ろにあったベッドへと軽く投げる。「うわあ!」と焦ったような声が聞こえた時には、彼女は既にベッドに身体を預けていた。


「び、びっくりした!急に何するんですか、風丸さん…」
「猫にばかり構っているお前が悪い」
「は、い?」


きょとんとした表情を浮かべるなまえの上に覆いかぶさりながら不機嫌にそう言い放ち、薄く開いた唇に噛み付くように口付けた。くぐもった声が耳に届いてもそんなのは気にしない。一度口付け、離れ、すぐにまた口付ける。それを何度も繰り返していると次第になまえから甘い吐息が零れた。それが俺の唇に触れて思わず身震いする。


「っは、…かぜ、まる…?」
「…なまえの馬鹿」


至近距離で頬を染めるなまえを見るとなんだかおかしくなりそうで顔を見なくて済むように強く抱きしめた。暫くすると耳元でくすくすと笑う声がして、柔らかい手のひらが俺の後頭部を優しく撫でていく。


「そっかー、猫ちゃんに妬いちゃったかあ」
「…うるさい」
「でも猫ちゃんとはこんなことできないよ」


そう言いながら耳朶に感じた柔らかい感触。突然のことに肩を震わせるとまた笑い声が聞こえて「風丸ってば可愛いなー」と言われた。からかわれている気がして仕方がないと思いながら、けれど今なまえが見ているのが俺だけだということに少なからず穏やかな気持ちになったことは言うまでもない。


「可愛いのはお前だってこと、教えてやるよ」
「え?あっ、い、いや、それは結構です!」
「遠慮するなって」
「してない!」
「絶対に猫とはできないことをするまで俺は満足しないぜ」
「風丸の馬鹿ーっ」


じたばたと俺の下で暴れるなまえを押さえつけながらその無防備な首筋に吸い付いてみせれば途端大人しくなった。可愛い猫はお前一人で十分だ、そう心の中で一人呟いて、俺はもう一度彼女を抱きしめる腕に力を込める。
ベッドの下で子猫が不機嫌そうに、にゃあと鳴いた。



雨月流兎様へ(風丸一郎太/嫉妬/甘)



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