サッカー部のマネージャーとして働いている私は、秋ちゃんや春奈ちゃん、夏未ちゃんたちとは違いサッカー部の選手のみんなと一緒に帰るようにしていた。私がサッカーをプレーするのも好きだったということも理由で、帰りに河川敷に寄って行こうとなると私も一緒に参加させてもらったりする。女だからと性別で何かと言われるわけでもなくみんなは快く私を受け入れてくれる。そんな空間がとても心地よかった。


「じゃあまた明日」
「ん、ばいばーい!」


いくつかの分かれ道でそれぞれの家の方向へと別れていく。もう何度かそれを繰り返し、今はキャプテンと豪炎寺と私の三人になっていた。


「明日って小テストあったっけ?」
「うん、数学の。キャプテン、そろそろ本気で勉強しないとヤバいんじゃない?」
「俺もそう思う」
「うっ…わ、分かってる!今日帰ったらすぐやるんだよ」
「…豪炎寺くん、キャプテンやると思う?」
「確実にやらないな」
「お前らなあ…っ」


キャプテンは頬を引き攣らせながらじとーっと此方を見てくる。それがなんだかおかしくてケタケタと笑っていると私と豪炎寺くんを置いて少し先に走っていき、分かれ道の前で足を止めた。いつもキャプテンと別れる場所だ。


「見てろよ!明日の小テストで絶対豪炎寺とみょうじの点数抜いてみせるからな!」


はっきりそう宣言すると私たちが帰るのとは逆方向へ駆けて行ってしまった。あまりに突然のことで反応できなかった私たちは呆然としたままお互いに顔を見合わせて、思わず笑いが込み上げてくるのを感じた。


「まるで捨て台詞みたいだよね」
「本当に抜かれたらラーメンでも奢ってやるか」
「あ、じゃあその時は私と割り勘でー」


まあ、ないだろうけど。そう付け足すと豪炎寺くんも満更でも無さそうに肩を竦めた。キャプテンが駆けていったのとは逆の方向へと足を向ける。日も殆ど沈んでしまって、藍色に染まった空に星が輝いていた。


「キャプテンが本気で勉強してるとこ、見てみたいなあ」
「…」
「サッカーにはあんなに真剣なのにね」


その様子を想像してみようとしたけれど頭の中には何も浮かんでこなかった。うーんと唸っていると隣で小さく笑う声。


「お前、円堂のことばかりだな」
「…え。そうかな」
「いつも開口一番が“キャプテン”だぞ」
「そ、そんなの意識したことなかったんだけど」


ただ豪炎寺くんと二人きりで今日は何話そうかなあと考えていたら…ああ、そうか。豪炎寺くんと私との一番の共通点だからキャプテンを口にしてしまうんだ。不意に横を見ると私より高い身長の豪炎寺くんは何かを考え込むようにじっと地面を見つめていた。


「お前は円堂しか見ていないのかもしれないが」
「豪炎寺くん…?」


そう言って立ち止まった彼に釣られるように私も立ち止まる。いつもと様子が違うのがよく分かった。


「俺はこれでもずっとみょうじを見てたんだけどな」


一瞬、ほんの一瞬だけ豪炎寺くんの表情が切に歪んだ気がした。一度瞬きをすればいつものポーカーフェイスに戻ってしまってさっきのが何だったのか分からなくなってしまう。けれどその言葉の意味に、僅かに残った夕日に照らされているからとは違う理由で頬が熱くなっていくのを感じた。彼は私の頭を軽く叩くように撫でてすぐに足を進めてしまう。


「困らせて悪かった、忘れてくれ」


一歩一歩私から離れていってしまう豪炎寺くん。考える前に先に腕が伸びて、気がつけば彼の手首をぎゅっと握っていた。その行動に自分でも驚いているものの、もちろんながら私より驚いているのは豪炎寺くんの方で。きょとんとした表情を浮かべて振り返る彼の顔を見ることができず、私はそっと俯いた。


「あの…私、キャプテンが好きだなんて一言も言って…ない」
「…まあ、そうだな」


ただ豪炎寺くんにそう勘違いされていたことは間違いないらしい。だって今のは明らかに、とても遠回しではあるものの、自惚れなんかじゃなくて…告白だったんだろうから。こんなことは初めてでどう言えばいいのか分からなくなりながら、精一杯小さな脳で考えて言葉を紡ぐ。


「キャプテンは私と豪炎寺くんと一番仲が良いから、話してただけで。そりゃあ好きだけどっ、その…友達としてっていうか…」


豪炎寺くんにはちゃんと伝わっているだろうか、たどたどしくなりながら不安げに顔を上げると豪炎寺くんも夕日に照らされてか否か、普段より顔が赤い気がした。


「だ、だから、さっきの豪炎寺くんの言葉、全然困ってなくて!その…むしろすごく嬉しくて、」


そこまで言って、豪炎寺くんの腕を掴んでいた私の腕が引かれて、ぼふんと彼の胸にぶつかった。頭の中が真っ白になっていると何時の間にか私の背と後頭部に腕が回されて気付いた時には私に逃げ場はなかった。


「豪炎寺、くん…!あ、ああ、あのっ、ちょっと…」
「すまない、前言撤回させてくれ」
「へ?」
「みょうじが好きだ」


豪炎寺くんに抱きしめられたまま耳元で囁かれた言葉はとても甘くて、耳まで真っ赤になっていくのを嫌でも感じてしまった。でも恥ずかしい気持ちより幸せな気持ちの方が大きくて、思わず頬が緩んでいく。豪炎寺くんにこんな真っ赤な顔見られるのは恥ずかしいなあ、そう思いながら私は彼の胸に顔を押し付けるようにして恐る恐る両腕を背に回した。
豪炎寺くんの胸から聞こえてきた鼓動は、私のと同じくらい、早かった。



みつき様へ(豪炎寺修也/甘/告白するor告白される)



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