暗いキャラバンの中、雷門イレブンのみんなはとっくに寝静まっていた。私はと言うとどうにも眠れなくて、辺りを見渡して誰も起きていないことを知るとはあっと溜息を吐いた。エンジン音だけが響くだけの静寂。と、そこで一つ悪戯を思いついた。席を立ち上がると立向居くんが一人で寝ている座席の近くに寄った。寝袋に包まり横になっている彼は静かに寝息を立てている。


(可愛い寝顔してるなあ)


睫毛が長いなあとか肌が綺麗だなあとか女の子に思うようなことを考えながら顔を近づける。眠ったままの彼はそれでも起きない。瞼に隠された丸い瞳はきっと綺麗なんだろうなあと考えて、出来れば起きている時もこれくらい近くで彼の顔を見たいものだと考えた。それは彼の性格からしてきっと無理なんだろうけれど。
そこまで考えて私は彼の唇へ視線を落とす。いつも私に好きと告げてくれるその唇。立向居くんに言われる言葉全てが好きだ。そう思いながら私はもう少し立向居くんに顔を近づけて、その唇に触れる。私の唇から伝わる温もりも、好きだ。さすがに起こしてしまったのか、立向居くんが小さく唸ってゆっくりと目を開けた。


「あれ…なまえさん…?」
「うん、おはよ。まだ夜だけど」
「え…あ、う…?なっ、なな、なんでこんな近く、にっ…!」


寝ぼけた様子でぼんやりしていたのに我に返った途端顔を赤くして声を上げた。他のメンバーまで起こしては申し訳ないと慌てて立向居くんの口元を手のひらで押さえる。同時にぴたりと言葉が止んで目をぱちくりさせる彼が見えた。


「静かにしてなきゃみんなが起きちゃうよ」


それに了承したのかこくこくと頭を縦に振る立向居くんを確認してから私はそっと手を離した。その頬は相変わらず赤いままで目を泳がせている。それから彼は小声で話し始めた。


「…何してたんですか?」
「立向居くんの寝顔を拝見しに」
「そ、それだけ…?」
「あとキスした!」
「なっ…!」


俺が寝てる間にですか!そうだよ。そんなやり取りをすれば暗闇でも分かるくらい真っ赤になる立向居くん。やっぱり可愛いな、そう思いながら彼の頭を撫でた。


「ごめんね、私が眠れなかっただけ」
「…き、キスなら…」
「ん?」
「キスなら、俺が起きてる時にたくさんしたい、です」


思わぬ言葉に手が止まる。そっと退けると立向居くんの真っ直ぐな目が私を見つめていた。彼の手が私の頬に伸びる。その手は少し、熱かった。


「寝てる時じゃ、俺、分からないじゃないですか」
「なにが?」
「なまえさんが…どんな顔してるか、とか」
「そんなの見なくていいよ」
「俺は見たいんです。だから、起きてる時にしたい。…駄目ですか?」


ああ、そんな聞き方、ずるい。そう思うものの何も言えない私は黙るしかなく、さり気なく目を逸らした。立向居くんはすごく可愛い後輩だ。でも、可愛いだけじゃない。こういったさり気ないところでとてもかっこよく見えたりするから魅力的なんだ。「駄目じゃないよ」そう返すと嬉しそうに表情を輝かせる立向居くん。


「なまえさん、キスしたいです」
「…どうぞ、ご自由に」
「ありがとうございます!じゃあ、遠慮なく」


そう言って唇に触れる彼はとても優しくて、温かくて、少しぎこちない所がまた擽ったかった。こうしてまた、私は彼に溺れていく。



春乃様(立向居勇気/指定無し)



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