私は今年の春中学生になったばかりの女の子である。みょうじなまえ、それが私の名前だ。そしてこのみょうじなまえは今とてつもなく落ち込んでいる。一枚の紙切れによって。中学生になって初めてのテスト!でも私はそんなに勉強することもなく臨んだ結果、まさかの21点という点数を取ってしまったのだ(ちなみに平均は82点。なんでみんなそんなに取れるの!)。担任からも「今のままじゃ駄目だぞ」と言われる始末。もう落ち込むしかない。海の中に夕日が沈んでいく、その様子がよく見える崖の上で私は座り込んで溜息を零した。


「絶望的だ…」
「一体何がだよ」


不意に聞こえた言葉に振り向けばそこには見覚えのあるピンク色の髪をした男の人。私の大切な、大好きな人だ。


「綱海先輩!」
「先輩って…そっか、なまえももう中学生だもんな」


ついこの間までは綱海にーにーって呼んでくれてたのによ。そう言いながら笑う綱海先輩はやっぱりかっこよくて、私はもう子供じゃないんですよって言ったらどうだかって返された。何時の間にか隣に座る綱海さんも制服で、なんだか新鮮だなあと思う。


「で、何をそんなに落ち込んでたんだ?」
「えっ…ああ…いや、その…」


これはまずい。憧れの綱海先輩にこんな点数を見られるなんて耐えられない!恥ずかしい!そう思いながら歯切れの悪い返事をしていると私の手の内からひょいっと紙切れを奪われる。ああっ、そ、それは!


「だ、駄目…!」
「あー、こりゃやっちまったなー。21点か」
「見ないでくださいよー!」
「わりーな、もう見ちまった」


あっはっは。そう高らかに笑いながら私に答案用紙を返す綱海先輩。恥ずかしすぎる。泣きそうな気持ちになりながら紙切れを受け取るともう一度大きく溜息を吐いて海へと視線を向けた。オレンジ色が目に入って、海を染めて、心が少し穏やかになる。


「…私、中学がこんなに大変だったなんて思わなくて…」
「まあ最初はそうかもしんねえけど、すぐ慣れるだろ」
「でも、先生にまで今のままじゃ駄目だって言われて…!不安で不安で、仕方が無いんです…」


テスト一つで何を大袈裟な、そう思うかもしれない。けれど新入生としてわくわくしながら生活してきた矢先大きな現実をぶつけられて、私なりにかなり重く受け止めてしまったのだ。まだ中学生活に不安も多い。気分が下り坂になっていくのは明らかだった。私はどうすればいいんだろう。そう思いながら俯くと不意に隣で綱海さんが口を開く。


「なんくるないさー」
「え?」
「おまじないだよ。なんとかなるって意味。最初だから不安なのは分かるけどよ、そんな重く捉えてるとできることもできなくなっちまうぞ」


俺だって最初は不安でいっぱいだったんだ。横を向けば綱海先輩が夕日に照らされながら昔と変わらない笑顔で私を見て、その大きな手で頭を撫でてくれた。それがすごく心地よくて、その言葉に励まされて、少しずつ心が軽くなっていく。


「…ありがとうございます、綱海先輩」
「おう。あんまり深く考え込むなよ」
「はい!私、次のテスト頑張ります!」
「ははっ。…あ、そうだ」


そう言うと綱海先輩は制服のポケットに手を突っ込んでごそごとと動かす。やがて目的の物を見つけたのか引き抜かれたその指先には、見覚えのあるキラキラ光るもの。


「なまえが次のテストで70点以上取れたら、これやる!」
「あーっ!貝がらのバッジ!」
「俺も応援してっからよ、頑張れなまえ」


綱海先輩の言葉は全て私の心に真っ直ぐ届いて、温めてくれる。さっきまでの不安がまるで嘘のようだった。


「綱海先輩、今だけ小学生に戻っていいですか?」
「俺の中でのなまえはいつでも小学生なんだけどな」


自然と頬が緩む。優しい笑みも、大きな手も、昔と全然変わらない。私は両腕を伸ばして綱海先輩に抱きつくと、ぎゅうっとその腕に力を込めた。


「綱海にーにー、大好き!」


憧れのお兄さんに、いつか恋をしてしまいそうだ。そう思いながら今はその想いに目を瞑って密かに胸の内にしまった。




護様(綱海条介/年下ヒロイン)



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