私、みょうじなまえは雷門中サッカー部のマネージャーをしている。マネージャーになったのには訳があって、その、私の好きな人に少しでも近づくためである。その人とは鬼道有人くん。青いゴーグルに青いマントが特徴的な彼はフィールド上で巧みに選手に指示を飛ばしゲームメイクを行う。その姿がかっこよくて、でも指示だけじゃなく彼自身の能力もすごく高くてサッカーが上手く、そんな彼に私は惚れこんでしまった。
今日も一連の練習を終え休憩に入る選手たち。私は数人にタオルとドリンクを渡して、最後の一つを届けるべく鬼道くんの元に駆け寄った。


「きっ鬼道くん、あの、これ!」
「ああ、すまない」


ありがとう。そう言って私の手から受け取ってくれたことに喜びを感じる。それが嬉しくて笑いかけると鬼道くんも僅かに口角を上げて微笑んでくれた。ああ、幸せだ!


「鬼道くん、今日もかっこいいね」
「…みょうじの目にはそう見えているのか」
「うん!だ、だって私は…ほら、その、鬼道くんを…」


そこまで言った矢先。何かが風を切る音が聞こえたと思い顔を上げると、私と鬼道くんの目の前を白い閃光が駆け抜けていった。鬼道くんと二人同じ方向を目で追うと地面に転がったのはサッカーボール。


「いやー、ごめんごめん。ちょっと足元が狂っちゃってさー」


続いて声がした方を見ればにこにこと無邪気な表情を浮かべて笑う松野空介ことマックスくん。も、もう少しで雰囲気的に告白できるところだったというのに、邪魔された…!っていうか今のって足元狂ったっと言うより狙ってたよね。え、何、私に当たったらどうするつもりだったの。


「…それで、俺をなんだ?」
「えっ、あ、ああ、だから、その…ずっと鬼道くんを目で追ってて」


それでも負けるものか!鬼道くんが続きを促してくれたことで私は言葉を紡いだ。すると少し驚いたような表情を浮かべた鬼道くんはそのまま照れ臭そうにそっぽを向く鬼道くん。そんな鬼道くんもかっこいい!


「…そうか。俺ばかり見ていてつまらなくないか?」
「そんなことないよ!わ、私は鬼道くんさえ見れればそれで…っ」
「みょうじ…」


わ、私、勢いづいたからって少し行き過ぎてないか!そう思うけれど、いやはや、一度出た言葉は元には戻らないわけでありまして。鬼道くんがじっとゴーグル越しに私を見つめてくる。ああ、心臓が早鐘を打ってる!ど、どうしよう、この流れだともしかして私…!
と、思った刹那。今度はずざあああっと砂が鳴る音が聞こえたと思うと同時に鬼道くんが一歩後ろに足を引く。すると今まで鬼道くんが居た場所に誰かが滑り込んできた。驚きのあまり声がでない、私。


「…」
「…」
「あっはは!ごめん、スライディングの練習してたら方向間違えちゃった!」
「…一之瀬、お前何処で練習していたんだ」
「え?さっきから隣でずっとやってたよ。なっ、土門!」


一之瀬くんは地面に座り込んだまま後方で苦笑している土門くんに笑いかけた。一方土門くんと言えば「ああ…うん…」だの何だの歯切れの悪い返事を返している。分かってるよ、一之瀬くん。あなたも邪魔しに来たんだってことくらい!マックスくんと同じように無邪気な笑みを浮かべて私たちに手を振り土門くんの方へ戻っていった一之瀬くん。どうやら鬼道くん以外、雷門中サッカー部のメンバーは些かおかしいらしい。私の恋路の邪魔をするなんて!そう思い恨めしげに一之瀬くんの背中を睨みつけていると目の前で小さく咳払いする声が聞こえた。ぱっと顔をあげるとまた鬼道くんが私に近づいている。


「その…だな、みょうじ」
「えっ、あ、はい!な、なに?」
「前から言おうと思っていたんだが」


そう言うと鬼道くんの手が私の肩に触れる。そこから伝わる温もりに自然と鼓動が早くなっていくのが分かった。え、ま、まさか、これって。


「鬼道、くん…」
「実は前から、お前のことが…」


鬼道くんの頬が僅かに赤らんでいるような気がする近づいたからか薄らとゴーグルの向こう側にある鬼道くんの瞳が見えて、私の頬まで熱くなっていった。頭の中が鬼道くんでいっぱいになっていく。と、またしてもそんな時。


「お前ら、本当に仲良いなー!」


鬼道くんが触れていない方の肩が少し強い力で叩かれる。びくっと震えて慌ててそちらを見るとそこには円堂くんがにこにこと人当たりの良い笑顔で立っていた。円堂くんのもう片方の手は鬼道くんの肩に触れていて、私と鬼道くんの間に立つ。


「え、円堂くん…?」
「うん、やっぱ同じ部員同士だし、仲良くて当然だよな!あ、でもそろそろ練習再開するから、鬼道は早くフィールドに戻れよー」
「あ、ああ、分かった」


円堂くんが笑顔のまま私たちから離れていくと鬼道くんもぎこちない態度のまま歯切れの悪い言葉を残し円堂くんを追いかけていってしまった。けれどその去り際にぽつりと零した一言に、私はにやける顔を抑えることができないままだった。


「続きは今日の帰りに」
(だなんて!期待してもいいのかな!)


ぱっと顔を上げると何処からともなく「ナイスキャプテン!」との声。勢いをつけてその声がした方を睨みつけるとマックスくんと一之瀬くんが「ひっ」と小さく声を上げた。



萌夢様へ(鬼道有人/ギャグ/告白/両想い)



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