(温かくてふわふわして)
(例えようのない気持ち)




「鬼道くん、お願いがあるんですが」
「なんだ」
「ゴーグルを外してください」


私は鬼道有人の顔をじいっと覗き込みながら言った。突然の私の言葉にきょとんとしたのは鬼道有人。以前と逆のパターンだ。


「…随分急だな」
「そういえば素顔を見たことがなかったので」
「前に俺が画像を見せてくれって言ったのを覚えているか」
「…はい」
「その時のお前の回答を俺の言葉だと思ってくれ」


即ちNOか。確かに私は相棒の中の画像を見せるのを渋った。何故ならそれには本人の許可を得ずに撮った鬼道有人が写っているから。なんだか気まずくなるような気がしたからである。だから私には正当な理由がある。…もしかして鬼道有人のゴーグルにも何か秘密があるんだろうか。そう思い口を開いた。


「見せられない理由があるんですか」
「特にはない」
「じゃあ見せてください」
「藤城」


不意に名前を呼ばれた。ゴーグル越しの瞳を垣間見ることもできず、私は顔をあげる。なんですかと言葉を添えて。


「お前がカメラの画像を見せるなら考えてやる」
「…」


してやったりとでも言うような表情を浮かべる鬼道有人。この男には適わないなと思いながら溜息を吐いた。それなら結構という意味を込めて。相棒に視線を落としたまま、鬼道有人と目を合わせないままでまた私は話し始める。


「折角なので鬼道くんの全てを知りたいと思ったんです」
「…全て?」
「私にとって一緒に居て不快だと思わない人間は鬼道くんくらいなんです。音無春奈さんも、そこまで嫌いじゃありませんが」


ああ、レンズが汚れてる。そう思いながら服の裾でそっと埃を取った。レンズを傷つけないように、そっと。するとまた「藤城」と私の名前を呼ぶ声がした。


「嫌じゃないのか」
「何がですか」
「俺がお前の一人の時間を奪うことが、だ」


レンズから顔を上げると鬼道くんはじっと此方を見ていた。その表情はゴーグルに隠されて相変わらず窺うことはできないから、どういった思いで彼が私を見ているのかは分からない。暫く考え込むように空をぼんやりと見上げて、あ、今日も空が綺麗だ、そう思いながら空に向かって相棒を構えた。ぱしゃり。


「…それなりに真剣なんだが」
「嫌じゃないです」
「?」
「最初に鬼道くんに逢った時とは違って、嫌だとは思いません」


今撮ったばかりの画像を相棒で確認して、普段より上手く撮れたなと満足げに頷いた。ちなみに言うと、今の言葉は全て嘘ではない。不思議と今の気分は穏やかだった。


「私は、この時間が有意義だと思っています」


ふわふわとした、何処か温かい気持ちになる。これを恋愛だと言うならそれは素敵なものなんだと思う。不器用な私にできるか否かは別として。


「そうか」


それだけ言って鬼道有人は私から視線を外した。ゴーグルが無ければ彼がどんな表情をしているのか分かるのに。彼を知りたいと思う、私がいた。







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