(カメラを握るあいつの姿が)
(頭から離れない、だなんて)







珍しく学校を休んだ。理由、それはただ行きたくなかったから。それだけだ。行くことを面倒だと思った。だからと言って毎日行きたくないとかそういうわけじゃなく、明日はもちろん行くつもりだ。ただなんとなく一人で考え事をしたかっただけである。
考え事とは何か。それは俺の中で芽生え始めたおかしな感情について、だ。最初こそあの黄色い声から逃れる為に屋上に行き、カメラを構える藤城ゆいと出会っただけ。それ以降なんとなく居心地がいいことから屋上に通うようになり、少しずつ会話もできるようになり。最初のように藤城が俺に対し刺々しい態度を取ることもなくなったなと思いながらベッドに寝転がったままぼんやりと天井を見つめた。ゴーグルを少し外すと普段よりクリアになる視界、そのまま近くに置いたままだったサッカーボールを手繰り寄せる。


(どうしてあいつのことばかり)


気付けば考えているのはあの無表情をどうすれば崩すことができるのかということ。授業中だって気付けば視線は藤城の方に向いているし、考えるのはそんなことばかり。ただ薄らと微笑んだあの表情が離れない、もう一度見てみたいと思う。サッカーボールを天井へ向かって投げ、重力に逆らわず落ちてくるそれを両手で受け止めた。


(驚かせればいいだけのことじゃないか)


表情を変えるだけならの話。でもそういった類じゃないことくらいは俺にもわかっていた。けれどそれ以上のことが分からない。分からないことがあるだけでも不快だというのに、さっきから繰り返す自問自答の終わりが見えないことに対しても苛立っていた。もう一度サッカーボールを天井に向かって投げ、受け止める。ぱしっと軽い音が部屋に響いた。


(そうじゃない)


無表情な機械人間のことが頭から離れない。サッカーのこと以上にあいつのことばかり考えてしまう。空を撮る姿、無表情なあの顔、以前ほど刺々しくない言葉。相変わらず機械人間だとしか言えないけれど、俺は他のやつよりあいつの人間らしい部分を見てきたつもりだ。人と接しないもののそれなりに思いやりを持っているような、藤城ゆいの姿を。


(俺が…)


どうしてここまで藤城のことを考えてしまうのか。目で追ってしまうのか。頭の中で一つの答えにたどり着いた時、もう一度サッカーボールを天井に向かって投げた。今度はもう少し、高く。


(こうまでして機械人間のことを考える、理由)


両手でサッカーボールを受け止めると同時、俺はベッドから上半身を起こした。







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テーマ「人外ファンタジー」
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