(言われて気付く)
(そんな時もあるのだろうか)




「私、藤城先輩みたいなお姉さんが欲しかったんです」


そう笑顔で言うのは音無春奈である。本日は珍しく鬼道有人が学校に来ていないという。久しぶりに一人で屋上を独占できると思っていた矢先現れたのは鬼道有人の妹という音無春奈。結局この屋上は私だけのものにはなってくれないらしい。先程撮った空の画像に目を落としながら溜息を吐いた。


「でも私は音無春奈さんのお姉さんにはなれませんよ」
「ええっ、どうしてですか?」


大きくて丸い目を私に向けて心底不思議そうに言う彼女に対し、そちらをじっと見て呆然としてしまう私。どうしてもこうしても、基本的なことが間違っている。


「私と音無春奈さんは血が繋がってないじゃないですか」
「…あ、そういう意味ですか」


藤城先輩らしいですねと言ってにこにこ笑う彼女の意図を掴めない。きょとんとしていると彼女は私との距離を少し詰めて目を輝かせながらこう言った。


「本当の姉妹にはなれませんけど、私が先輩をお姉ちゃんって呼べる方法が一つありますよね」
「…ありますか?」
「ありますよ!先輩がお兄ちゃんの彼女になってくれればいいんです」


音無春奈はいい案だとでも言うように手を叩いた。私は空いた口が塞がらず危うく相棒を落とすところだった。危ないですよと彼女が手を差し伸べてくれたおかげでその事態は免れたものの、私はその言葉の衝撃に耐え切れなくなっている。


「…鬼道くんと違ってユーモアのセンスに溢れていますね、音無春奈さん」
「何言ってるんですか藤城先輩、本当にそう思ってますよー」
「え」
「先輩は、お兄ちゃんが嫌いですか?」


いや、嫌うも何もそれ以前の話、私は恋愛というものをよく分かっていない。普通の人間関係でさえよく分かっていないというのにそれはあまりにも私にとって酷じゃないか。けれどじっと私の眼を覗き込んでくる音無春奈のあまりにも透き通った瞳に押され、とりあえずは彼女の質問に答えることを優先してしまう。


「…嫌いじゃ、ないです」
「じゃあ好きですか?」
「それは…分かりません」
「お兄ちゃんは、少なくとも藤城先輩のこと、嫌いじゃないと思うんです」


あんなに楽しそうに誰かの話をするお兄ちゃん、そう見たことないから!にこにこと笑いながら告げられる事実に思わず耳を疑った。あの鬼道有人が彼女の前で私のことをどう話したのかは知らないけれど、まさか話題に上れていたとは。そこまで考えて慌てて口を挟んだ。ちゃんと私の意見も、言わなくては。


「あの、私恋愛そのものをよく分かっていないので、」
「誰だってそんなのわかりませんよ!先輩は先輩らしくお兄ちゃんに接すればいいんです」
「いや、だから…」
「私も応援します!だから藤城先輩、」


恋愛、してみませんか!
そう言われて頭の中を駆け巡ったのは今までの鬼道有人と過ごした日々。それから、相棒に一枚だけ残っている人物の画像。私はいつのまにか音無春奈を無碍に扱うようなことができないようになっていたわけで、確かにこれは恋愛と結んでもいいのではと思ってしまったわけで。


「…私がしてもいいんでしょうか…」
「もちろんですよ!頑張りましょうねっ、藤城先輩!」


私はまた新たな感情を覚えようとしている。俯いた頬が少し、熱かった。








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