※7話終了後、高校模造設定のまま





「初めまして、風丸一郎太くんの彼女の藤城ゆいです!」


効果音をつけるとしたら【ぽかん】が一番合っているだろう。
その通りの反応を示す目の間の少年たち(2つ下のサッカー部らしい)にあたしは満面の笑みを浮かべた。


「え、彼女って…え?」
「風丸、おま、」
「…前話しただろ、好きなやつがいるって」
「えっ、一郎太、あたしのこと話しててくれたの?」


嬉しいなあ、思わずにやけてしまうじゃないか。頬が緩むのを感じながら一郎太の方を見ると、あたしとは違って少し照れたような表情を浮かべてそっぽを向いている。この二年で背はすごく伸びたし、前よりかっこよく…なってる。改めて思うと、少しどきっとした。


「も、もういいだろ。行くぞ、ゆい」
「え、ちょっと、一郎太?」


急にあたしの腕を掴むと、有無を言わさぬようにぐいぐいと引っ張られて少年たちから離されていく。あたしは慌てて彼らに手を振った。


「あー、またね、一郎太のお友達ー」


ただ彼女だって宣言しただけでさっさと去っていってしまうあたし達についていけないのか(そりゃあ、あたしならついていけないだろう)少年たちはぽかんとした表情のまま緩く手を振ってくれた。遠くで「好きなやつって彼女のことか!」とか「あの風丸が」とかぶつぶつ呟くような声が聞こえた気がしたけど、まあ、気にしないことにしよう。















「何処?ここ」
「俺の家」
「え、」


ずるずると引っ張られて行く間、一郎太は何も話してくれなかった。どうしたらいいか分からず、とりあえずあたしもそれに従ってついていく。と、止まったのは彼の家の前。困惑するあたしを知ってか知らずか、一郎太はそのまま家に引っ張っていった。


「ちょ、ちょっと、邪魔なんじゃ、」
「大丈夫」
「どうしたの、一郎太」


一緒に過ごした六日間では考えられないほど今の一郎太は少し強引で、そのままとある部屋に入った。後ろ手に扉を閉める一郎太にちらりと目をやってから室内を見渡す。シンプルで綺麗に片付いてる部屋だな、とぼんやり思った。


「ここ、一郎太の部屋?」
「ああ」
「へぇ、綺麗な部屋だねー…あたしの部屋と大違い」
「そんなことなかっただろ、ゆいの部屋も綺麗だった」
「あはは、ないない!」


そう言って笑いながら振り返ると、途端ぎゅっと抱きしめられた。屋上でもこうされたけど、今は彼の声が少し震えてる気がする。


「…一郎太?」
「二人きりになれる場所、他に思いつかなかったから」
「ふ、二人きりって」
「他のやつがいる前でこんなことできない、だろ」


本当はずっとこうしていたかったんだ。
抱きしめられているから表情は見えないし、声が聞こえるだけ。それでも彼がどれだけあたしに逢いたいって思っていてくれたのか、それはなんとなく伝わった。よかった、あたしも同じくらい、一郎太に逢いたかったんだよ。


「二年も経ったんだね」
「ゆい、遅すぎる」
「ごめんってば。あたしもなんでこっちに来れたのかわかんないし」
「じゃあなんで屋上に?」
「さあ?気付いたらね、一郎太の下手くそな歌が聞こえてきたんだよ」


くすくす笑ってやったけど一郎太はあえて何も言ってこなかった。あたしが良く知ってる歌。それを一緒に歌ってたら、気付いたら目の前に彼がいた。それだけ。
今度はあたしからも腕を一郎太の背に回す。綺麗で長い青い髪が目に入った。


「やっぱり髪、綺麗だね」
「そうか?」
「うん、ここは変わってない」


そう言うと少し距離を開けた一郎太。そこで漸く彼の表情を見ることができた。あのころと何も変わってない、それなら、


「二年で、何処が変わったのかな」


そっと一郎太の頬に触れてみる。何処かしら変わったんだろう、それでもあたしにはあの六日間の彼が目の前にいるようだった。


「背は高くなってるね、あたしより普通に高い」
「前はゆいと同じくらいだった、か」
「それから…声も、少し。それくらい?」
「…どうだろうな」


あるかもしれないぜ、他にも変わったとこ。
不意に頬に触れていたあたしの手に一郎太の手が重なる。あたしのと違って男の子の手をしていると意識すると、そこも変わったんだと考えた。そのまま片腕をあたしの背中に回すと、一郎太が此方に体重をかけてくる。え、ちょ、ちょっと。


「うわっ」


抵抗しようとした途端、あたしはベッドに押し倒されていた。別に痛くはなかったけど、突然のことで驚いて目を瞬かせる。必然的に彼を見上げる形になると、逆光で少し暗くなった一郎太の顔にはにやにやと怪しい笑みが浮かべられていた。


「ただ抱きしめるだけじゃ物足りなくなった」
「な、なに」
「キスだって、あんなのじゃ物足りない」
「え、一郎太、」
「二年もちゃんと待ってたんだぜ?少しくらい欲張っても、いいだろ」


欲張るって何を、そう問い掛ける前にあたしの唇は彼によって塞がれていた。瞬間は前にもされたような触れるだけのもの、でもすぐにまた重ねられて、それを何度も繰り返される。何度も、何度も。
彼にとってはどうだかわからないけどあたしには初めてのことで、ただ胸の内から恥ずかしいという気持ちと一緒に幸せだという気持ちも溢れてきて。軽いリップ音を何処か遠くで聞くように感じて、ようやく解放された。息が、自然と荒くなる。


「っ、はぁ…な、に」
「…歯止め、利かなかった」


小さく謝罪する一郎太の頬も赤く染まっていて、少しでも多く酸素を取り込もうと肩を上下する姿にとくんと胸が鳴った。溢れる感情を抑える術をあたしが知っているはずもなく、素直に口を開く。


「す、き」
「え?」
「一郎太、大好き」


好きすぎてどうすればいいか分からないくらい、好き。ただ伝えたい気持ちばかりが溢れて、率直な気持ちを紡ぐ。一郎太は一瞬驚いたような表情を浮かべて、すぐにふにゃりと柔らかい笑みを零した。苦笑ではないけど、少し困ったような顔。


「お前、あんまり煽るなよ」
「?だって好きなんだもん」
「…適わないな、ゆいには」


そう言ってもう一度ぎゅっと抱きしめてくれる一郎太が愛しくて、この時間が幸せで。あたしはまた緩む頬を抑えようともせずにその背中に腕を回して、彼の耳元で囁いた。


「好き、大好き、愛してる」

(愛の言葉は、全部彼だけに捧げよう)




***
二人をもっといちゃいちゃさせてあげたかったから…!
風丸は紳士だと思う。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -