気付けば目の前は広いサッカーフィールドじゃなく、
見知らぬ部屋の、ベッドの上だった。

わけも分からず未だぼんやりとした視界を晴らそうと目を擦りながらベッドの端に腰掛け、ぼうっと考える。どうして自分はここに?
その時、がちゃりという音がして目の前の扉が開いた。


「あ、」
「…え」


ふわふわの茶色い髪、黒い目をした女の子が自分を驚いた表情で見ていた。いや、多分、俺も充分困惑した表情をしていたんだろうけど。
慌てて俺は、彼女に問う。


「…えっと、此処、どこだ?」
「いやいや、あたしの家ですけど。どちらさんですか」


あたし間違えてないよね、と辺りをきょろきょろ見渡す彼女。ますます理解できない、なんで俺が彼女の家に?っていうか、ベッドの上、に。


「お、俺は風丸。風丸、一郎太。雷門中サッカー部二年なんだけど、」
「雷門中?んー…聞いたことない」


「え」と思わず言葉をなくしてしまった。そんなはずはない、だってフットボールフロンティアで優勝したんだぞ?それに今は宇宙人と戦ってる最中で、サッカーを知らない人だってニュースで、それくらいは。


「あたし、藤城ゆい。此処に一人で住んでます、よろしく」
「え?あ、よ…よろ、しく」


急に手を差し伸べられたものだから(普通異性が何の前触れもなく自分のベッドの上にいたら騒がれるものかと思っていたんだが)、俺はその手と彼女の顔とを見る。恐る恐る此方からも手を差し伸べ、そっと握った。


「じゃ、じゃあフットボールフロンティアは知ってるか?それから今宇宙人は何処の中学を潰そうとしてるとか」
「…あの、君…大丈夫?サッカーのことはよくわかんないけど、少なくともその宇宙人がどうのってのがないのは分かるよ。っていうか最初に聞くべきだったんだけど、何で此処にいるわけ?」
「そんなの、俺だって知りたい…」
「…気付いたら此処にいた、とか?」
「そう、だと思う」


ふーん、と特に咎めることもなく彼女…藤城は俺を上から下までじっと見た。「変わったジャージだね」なんて言われたけど、俺にとってはそうでもない。
不意に座っていたベッドがぎし、と鳴った。未だ混乱する俺の横に腰掛けて、藤城は俺の顔を覗き込んでくる。

「じゃあ風丸くん、これから行くとこなかったりする?」
「…此処が俺が知ってる場所じゃないなら、そうなる…な」
「そっか、じゃ、このままあたしの家に居なよ」
「え、え?」


さらっと言う藤城に慌てた。当の彼女は名案だと言うように笑みを浮かべていて、俺は更に困惑した表情になる。確かに今頼れるのは彼女だけ、でも、


「で、でも、藤城に迷惑、掛かるんじゃ、」
「いーよ、あたし一人暮らしだし。ちゃんと状況を把握して、どうやって帰ればいいか、此処で一緒に考えればいいじゃん」


そう言って藤城は俺の頭を軽く撫でた。その手は何となく俺を安心させて、不安を抱いていた俺の心を軽くする。それでも少し考えたけれど、他に道はない。此処は彼女の親切に甘えさせてもらうべきじゃないだろうか。


「本当に、いいのか?」
「ん、勿論」
「じゃあ…暫く、よろしく」
「あ、でも条件が一個!」
「え?」
「あたしのことはゆいって呼んで。わかった?」

「ね、一郎太」と笑顔で普段あまり呼ばれることのない名前を呼ばれ少し擽ったくなる。でも嫌な気持ちなんてこれっぽっちもなくて、俺もようやく、自然と笑みを浮かべることができた。


「…ああ、ゆい」



こうして、お互いのことをよく知らないまま、俺と彼女…ゆいは出逢った。



曖昧に始まる月曜日


(あ、あたしは高校1年だから。この辺の高校のこととか知らないだろうから、名前は言わないけど)
(…ってことは、16歳?)
(うん)
(ち、中学生だと思ってた…!)




***
設定無理矢理とか言っちゃダメ。





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