「バーン、ちょっと来て!」


私は満面の笑みを浮かべて愛しい人、バーンを呼ぶ。けれど彼は面倒そうな表情を浮かべ、自分を手でひらひらと仰ぎながら振り向くだけ。


「今その名前で呼ぶなっつったろ」
「だってバーンはバーンでしょ」
「…今は南雲晴矢だ」
「ねえバーンってば!」
「おいコラ話聞いてたかテメェ」


私たちは今沖縄に来ている。なんでも雷門イレブンが沖縄に来るらしく、バーンが彼らを見てみたいと言い出したのがきっかけだ。で、彼一人じゃ心配だから私もついてきてる、と。それにしても沖縄は暑かった。私も彼に真似をしてパタパタと首元を手で仰ぎながらなんだかんだで此方へ来てくれたバーンを目で確認し、目の前に広がるそれを指差す。


「海がすっごく綺麗!」
「…それだけか?」
「だけって…ちょっと!『だけ』じゃないよ!普通こんなに綺麗じゃないでしょ!」
「あーはいはい、綺麗だなー」


そんなことどうでもいい、俺は今暑いんだとばかりに溜息を吐いて砂浜に腰を下ろすバーン。まったく、ムードってものがないなあ。折角付き合って初めてのデートらしいデートができると思って喜んでたのに。むっとした表情を浮かべながら、私はもう一度海へと視線を落とした。じりじりと焼け付くような太陽が暑いと思っていると、私はいいことを思いつく。早速実行に移すため、私は履いていた靴を脱いでその綺麗な海に足をつけた。


「ひゃー!冷たい!」
「何餓鬼みたくはしゃいでんだ…」
「気持ちいいよ、バーン!バーンも入れば?」
「…俺はいい。濡れちまったら面倒だし」
「折角彼女と一緒なのにただ座ってるだけなんてつまらない男ね」
「お前遠回しに入れって強制すんなよ…」


仕方ねぇなと言いながら渋々といった感じで砂浜から立ち上がり砂を払いながら近づいてきてくれるバーンに私は頬が緩んで、早く早くと手招きをした。


「うっわ、冷てぇ」
「気持ちいいでしょ!」
「まあ…この暑さならちょうどいいかもな」


ふんっと顔を背けるけれどその表情がいつもより何処となく嬉しそうに見えて、素直じゃないなあと心の中で笑った。そんな彼の表情に気を取られていたからだろうか、突然襲う今までより少し大きな波に足元を掬われる。


「うっ、わ、わわわ!」
「ちょ、おい、おまっ、」


ばしゃん、と水が音を立てると時既に遅し。予想していた衝撃は私には加わらず何故だろうと目を開けた。すると私のすぐ下にはびしょびしょになったバーンが倒れていて、頬を引き攣らせている。


「…だから嫌だっつったのに」
「う、うわあっ、ごめん、バーン!びしょ濡れだね…」
「何処かの誰かが大胆なことに俺を押し倒したからなー」
「え」


よく見れば倒れるバーンの上に跨る私。ようやくその状況を理解して慌てて退こうとすると、ぐいっと腕を引っ張られてまたバーンの上に倒れた。


「ち、ちょっと、バーン!」
「別にいいだろ、暑いしよ。もう少しこのままでいようぜ」


にやりと口角が持ち上げられて黄色い瞳に射抜かれる。彼の髪が、頬が、服が濡れていて、それを見てより一層私の心拍数は上がった。頬に触れてくる濡れた彼の手はひんやりしている。


「俺もこうして付き合ってやったんだ。…アンタにも付き合って欲しいね、なまえ」


そう言う彼の言葉を断る術を、私は知らなかった。頬が染まるのを見せないように少しそっぽを向いて口先を尖らせる。


「…仕方ないなあ、付き合ってあげるよ」
「はっ、満更でもなさそうだな」


そう言って口付けたバーンの唇はとても甘く感じて、なんだかそれが恥ずかしくて、私は真っ赤な顔を見られないようにバーンの肩に顔を埋めて、抱きついた。



照れ隠しだなんて言わないで!

(だって、恥ずかしいけどすごく幸せなんだもん!)


***
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芽衣さまへ

091228

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