※名前変換無し
窓辺から差し込む日差し、静かな教室。窓からは散りかけた桜の花びらがひらりと入ってきて私の机の上に落ちる、そんなとても穏やかな午後。ふわあと大きく欠伸をするまではよかったものの、私の耳に届いた音はその穏やかな気持ちを一転させるものだった。チョークが黒板を叩く音、クラスメートがノートにペンをはしらせる音。即ち、今は授業中だということ。全くもって面白くない。そしてそう思わせるのは隣の席の男の子のせいでもある。
「おい、寝るなよ」
窓の方から顔を180度回転させた先にあったのはにやにやと笑う風丸一郎太くんであった。青空の如く爽やかな色をした髪が印象的な彼は頬杖を突きながら私を見ている。ちらりと視線を落とすと彼のノートは丁寧な字で纏められていて、私と違ってちゃんと授業を受けていたんだなあと思い知らされた。
「寝てないよ」
「寝そうだった」
「そんなことない」
「本当かよ」
「大丈夫です」
ごしごしと目を擦ってからきっぱり言い切ると彼は肩を竦めて何も言わなくなった。また黒板へと視線を戻した風丸くんの表情は真面目で、さっきまで私を見ていた意地悪な目もそんな色を灯してなくて、なんだか違う人のよう。少し疑問に思った私はそのまま風丸くんの横顔をじいっと見つめて、先生に気付かれないように小さな声で話しかけた。
「ねえ」
「ん?」
「風丸くんはどうしていつも寝ないで真面目に授業を受けてるの?」
そう問えばきょとんとした表情で風丸くんが私を見つめ返してきた。確かに少しおかしな質問だったのかもしれない。授業は真面目に受けるものであって、私のように、そう、授業中に余所見したりだとか、居眠りしたりだとかはしない方がいいに決まってる。おかしな質問だったな、そう思い返してなかったことにしようとした矢先のこと、私より先に風丸くんの唇が動いた。
「知りたいか?俺がいつも寝ないで真面目に授業を受けてる理由」
「え、何か特別な理由があるの?」
「まあ、一応」
そう言うと同時に風丸くんが優しく微笑んだ。その笑みがあまりに優しくて、温かくて、ふわふわしてて、私は思わず目を見張る。
「俺がいつも寝ないで真面目に授業を受けてる理由は、起きてればお前の寝顔を見れるからだよ」
いいだろ?そう自慢げに言って笑う彼に適う手段など、私は持ち合わせてはいなかったのだ。
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匿名さんへ
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