二人の男の子がにこにこと笑顔を浮かべている。その真ん中に私。ああ、なんて素敵な状況なんだろう。二人ともかっこいいし、サッカーも上手いし、優しくて女の子にすごく人気がある。風丸一郎太くんと一之瀬一哉くん。何もなければ、私だって女の子なわけだし、とても喜んでいただろう。でも違う、そうじゃない。
二人は笑顔だけど、笑顔じゃなかった。もっと簡単に言えば、目が笑っていないのだ。私を挟んでお互いに笑いかけてる二人の間に流れる空気は冷たく、鋭い。その真ん中に私は立たされていた。


「一之瀬、俺はみょうじと二人でいたいんだ。悪いが此処は空気を読んでくれないか」
「あははっ、風丸ってば冗談きついなあ。なまえは俺と一緒にいたいって言ってるんだよ。ね、なまえ」
「えっ、いや、あの、私そんなこと一言も…」
「…一之瀬、お前いつからみょうじのことを名前で…」
「え?そんなの前からに決まってるだろ。俺となまえが仲良くなってからさ」


いや、私も今初めて名前で呼ばれましたが。心の中で突っ込むけれど、それは言葉にはならなかった。
私は幸せなことに、同時に風丸くんと一之瀬くんに、す…好きだと、言ってもらえた。二人で一緒に言おうと約束でもしたのか(いや、でもこの状況からしてそれはなさそう)本当に同時に、私の左腕を風丸くんが掴み、右腕を一之瀬くんが掴んだ状態で一言、「好きだ」って。本当に幸せだと思う、私も二人に憧れていたから。…でも贅沢なことに、私はどちらか片方を選べなかった。だから言ったんだ、「考えさせてください!」って。そうして待たせてる結果が、今ということ。
私より少し背の高い風丸くんと一之瀬くんは、私の頭上で刺々しい言い合いをしている。


「あ、さっき円堂が風丸のこと呼んでたよ」
「そうか、ありがとな。でもみょうじと話してから行くよ。ああ、そういえば一之瀬、お前もさっき土門が探してたぞ。急ぎの用だったみたいだし、早く行った方がいいんじゃないか?」
「土門が?なら大丈夫だ、土門は俺がなまえを好きなこと知ってるから、なまえと一緒にいたって言えば分かってくれるよ」
「ど、土門くん知ってるの…!?」


どちらかがああ言えばこう言い、こう言えばああ言う。それの繰り返しで更に場の空気は冷たいものになっていった。どちらからともなく小さく舌打ちする音さえ聞こえる。温度差が激しいと頬が引き攣る私はそっと俯いて自分の爪先に視線を落とす。と、不意に肩を抱かれ左に引き寄せられた。突然のことで抵抗する暇もなかった私はただ目を瞬かせるだけ。風丸くんの綺麗な青い髪が目の端に映った。


「かっ、か、風丸、くんっ…!」
「あっ、風丸ずるい!」
「どうやらみょうじは俺と一緒にいたいらしいな、こんなにひっついてくるんだし。というわけで諦めろ、一之瀬」
「こ、これは今風丸くんに引っ張られて、」
「さあ行くぞ、みょうじ。あっちでちゃんと答えを聞かせてもらうからな」


にこ、と微笑む風丸くんの眩しい笑顔!くらりと眩暈がしそうなほど綺麗でかっこいい!胸が高鳴るのを覚えるけれど、そこで違和感が少し。…それは遠回しに答えの選択肢を一つにするということでしょうか。そう問おうとしたけれど、今度は右腕を強く引かれて風丸くんの腕の中から引っ張り出される。「あ」と小さく声を漏らしたと同時、今度は私の肩に一之瀬くんが手を乗せていた。


「い、痛いよ、一之瀬くん…」
「ごめんね、なまえ。風丸がセクハラ紛いなことするから、思わず。なまえは俺のものなのになー」
「いつからみょうじはお前のものになったんだよ、まだ決まってないだろ?」
「ははっ、もう俺となまえの中では決まってるんだよ。なまえ、ちょっとこっち向いて」


反論する暇さえ与えられず勝手にそう宣言され、私は溜息を吐いた。半分諦めながら言われるがままそっと顔を背後の一之瀬くんに向ける。と、同時。

ちゅ、

小さいリップ音が耳に届いた。何が起こったか理解できない。ただ、頬に柔らかい感触が。


「…」
「……」
「なまえの頬っぺた、柔らかいね!」


あはっと笑って軽々しく言う一之瀬くんと、頬を赤くしてわなわなと震えている風丸くん。そこでようやく理解した。私は一之瀬くんにキスされた!…いや、頬っぺたにだけど。それでも十分衝撃的で、顔に熱が集まっていくのを感じる。は、恥ずかしい!


「い、一之瀬くん、い、いい、今、キス…っ」
「ん?こんなのアメリカじゃ挨拶だよ!本当に好きな人にはもちろん、唇に…」


そう言って近づく一之瀬くんの顔。え、え?これってもしかして、もしかして!そんな、私まだ心の準備が…!鼓動が一層大きくなって、あと少しで一之瀬くんの唇と私のそれが重なるといった一歩手前、ぐいっと肩を引かれて一之瀬くんとの間は開いてしまった。


「セクハラはどっちだ、一之瀬!みょうじに触るな!」


気付けばまた風丸くんの腕の中。今度はさっきよりも腕に力が篭められ、ぎゅっと抱きしめられた。耳を風丸くんの胸に押し付けるような体勢になると、少し早い心音が聞こえてくる。そのことがまた私の心臓の動きを早めた。


「…もうちょっとだったのに」
「何がもうちょっとだ!此処はアメリカじゃない、日本だからな!変な習慣が此処でも通用すると思うなよ」


ぐっと風丸くんが一之瀬くんを睨みつけて、それでも一之瀬くんはにこにこと笑っていた(勿論その笑みは“ただの笑み”じゃなかったけど)。ばちばちと火花さえ散りそうな状況に危機感を覚えて、私は風丸くんの腕の中からそっと声を出した。


「け、喧嘩はやめようよっ、ね?」
「…誰のせいだと思ってるんだ」
「って言うかさあ、なまえがはっきりどっちが好きか言ってくれたら解決する問題だと思うんだけど」


ね、と強調されてしまった。ああ、わかってましたよ。でもあえて言葉にしなかったのに!そういえば、と抱きしめたまま上から私を見る風丸くんと、視線で答えを促す一之瀬くん。


「…えっ、い、今すぐ決めなきゃ、駄目…?」
「ううん、なまえが俺たちが喧嘩しても構わないなら、いつでもいいよ」
「答えを引き伸ばして喧嘩するなって言うのは少し難しい頼みだからな、みょうじ」
「ええー…」


どっち?と目を輝かせて二人に見られる。二人とも素敵で、いいところがあると思う。今までは憧れだったわけだし、急にどちらが好きかと迫られることなんて想定外だった。だからまだ決められない、でも喧嘩もして欲しくない。私は必死で考えて、赤く染まる頬もそのままに顔をあげた。両腕を二人に離してもらうと、今度は私が風丸くんと一之瀬くんの腕を緩く掴む。口を開いた。


「わ、私、まだ決められない…の。ふ、二人とも、大好きだからっ…」


必死の思いでそう紡ぎ、そっと顔をあげる。すると目の前の二人は何とも言えない微妙な表情を浮かべていたけれど、すぐに風丸くんが噴き出した。その隣で苦笑を浮かべる一之瀬くん。


「…みょうじには敵わないな」
「ほんとほんと。…でも仕方ない、か。今日だけ停戦でいいよね、風丸」
「ああ、わかった」
「…え?えっ?どういうこと?」


二人だけで話しが通じてよくわからないと慌てていた刹那、二人に名前を呼ばれる。その呼び方があまりに優しくて、とくんと胸が高鳴るのを抑えることなどできなかった。
それから私は、両頬に二人の王子様からの優しいキスを受ける。どうやら私には、まだまだ二人からどちらかを選ぶなんてできそうにないみたいだ。



欲張りプリンセス!

(でも明日からまた敵だからな、一之瀬)
(ああ、負けるつもりないからいいよ)
(け、喧嘩しないで!二人とも怖いから…!)



***
3131Hit Thank you!!
芽衣さまからのリクエストで【風丸vs一之瀬 甘】でした。最後をどちらで終えるか考えたんですが、石田本人が両方大好きすぎるということで、両方という…欲張りな結果に…!
リクエストありがとうございました!

芽衣さまのみお持ち帰り可能。



091214

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