「私にサーフィンを教えてください、師匠!」


沖縄の海辺、砂浜にて。私が大声を出している相手は綱海条介である。そしてそんな綱海は困ったような表情を浮かべて私を見ていた。


「教えろっつったってなあ…サーフィンは簡単にできるもんじゃねえし」
「私努力だけは人一倍できるから!」
「色々大変なんだぞ?ずっと肌を太陽に晒すのって女は嫌がるんじゃなかったっけか」
「うっ…ひ、日焼けならもう日焼け止めべったべたに塗りたくるから大丈夫!」
「…大体なんでそんな急にサーフィン教えろとか言うんだよ」


そこで私は詰まってしまった。日焼けなら気合いでなんとかしてやる。下手でも努力していつか上手くなってやる。その理由、は。


「…つ、綱海の見てる世界が見たい」
「あ?」
「綱海はいつもサーフィンが楽しいっていってるじゃん。私も綱海が楽しいって思えること、やってみたいの!難しいってのは重々承知の上だし、大変だろうけどっ」


顔を上げて綱海を見上げる。彼は少し驚いたような表情を浮かべて、それからすぐにいつもの太陽みたく明るい笑みを浮かべた。私の頭をわしゃわしゃと撫でるその大きな手は、いつもの優しい綱海だ。


「じゃあ、一緒にやろうぜ。でも慌てるなよ?少しずつだ」
「…うんっ、ありがとう!私頑張るよ!」


にっこりと笑い返せば綱海の手が頭から離れていく「あ、それから、」と繋ぎの言葉が聞こえて首を傾げた。綱海は歯切れの悪そうに「あー」だの「えー」だの言ってそっぽを向く。暫くして漸くちゃんとした言葉を紡ぎ始めた。


「俺の中で一番楽しいって思える時はサーフィンしてる時じゃねえんだ」
「え?そうなの?サーフィンが一番なのかと…思ってた」
「まあサーフィンもそれくらい楽しいし俺にとっちゃ大切だけどな。そうじゃなくて…」


そこまで言うと今度は綱海の手が私の後頭部に回って、その明るい色をした髪が潮風に揺れて、何をするんだろうと思った矢先唇に一瞬触れるだけの感触。今のは一体、そう思っているうちに頭をぐちゃぐちゃにかき回すように撫でられて前を見ることができなかった。


「うわあっ、つ、綱海…!」
「俺が一番楽しいのは、なまえと一緒に居る時だからな!」


じゃあ、また明日!そんな言葉を聞くと同時に手が離れて、私の横を綱海は駆け抜けて行ってしまった。慌てて振り返ったけれど綱海の背中しか見えず、それも少しずつ小さくなっていく。けれど私の胸の中はドキドキと幸せでいっぱいでどうしようもなくて、すうっと大きく息を吸い込んでその背中目掛けて精一杯の気持ちを投げつけた。


「それはこっちの台詞なんだから!馬鹿綱海ー!」



届け、私のこの想い!
(好きなやつが好きなことを知りたいと思って何が悪いんだ!)


***
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悠さまへ

1000207

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