「一之瀬ー!私ね、一之瀬にプレゼントが、」
「いらない」


お互いに笑顔のまま硬直。俺は満面の笑みを浮かべたまま同じく笑顔の女の子、みょうじなまえを見つめた。一応なまえは俺の彼女なんだけれど、彼女には少し欠点があるんだ。なまえは俺の一言をまるで無視して、もう一度ずいっとカラフルな包装をされた箱を差し出してきた。


「一之瀬、プレゼント、」
「いらない」
「遠慮せずに!」
「してない」
「いーちーのーせー」
「いつもの手には乗らないよ。中身なんてとっくに分かって、」
「まあまあそう言わずに!」
「って、ちょ、なまえっ」


溜息が出そうになりながら無理矢理俺の手にその箱を押し付けてくるなまえ。どうせいつものことだ。どうなるかなんて分かりきってる。
だってなまえはとてつもなく恐ろしい、


「一之瀬にプレゼントー!」
「うっわ!」


…悪戯っ子なんだから。
俺が叫んだと同時にしゅるりとリボンが解かれ箱が開くと、中から俺の顔面目掛けて飛び出してきたのはボクシングで使われるようなグローブ。避けようにもそんな凄まじい瞬発力なんて俺は残念ながら持ち合わせていなかったので、そのままグローブに鼻先を強く強打される。びよんびよんと揺れるグローブが飛び出す箱を持って顔面を押さえる俺とお腹を抱えながらケタケタと笑い声をあげるなまえ。傍から見れば異様な光景であることは間違いないんだろう。


「…いってぇ…」
「あははっ!一之瀬、大丈夫ー?」
「聞くならこういうことするなよ!」
「だって一之瀬の反応が面白いからさあ」


てへっと語尾に星さえ飛ばしそうな勢いで言うなまえに多少なりとも苛立ちを覚える。聞こえるように大きく溜息を吐くと手に持ったままだった箱をずいっとなまえへと押し戻してやった。もう一度閉めて今度は彼女に仕掛けてやろうかとも思ったけれど、さすがに女の子にそれは酷かと我慢する。


「あ、駄目だよ一之瀬、ちゃんと持ってなきゃ」
「もう殴られるのは御免だからいらない。ほら、ちゃんとなまえが持って帰れよ」
「そうじゃなくてー。ちゃんと中まで見て!」


なまえはそう言ってにやにやと楽しそうに俺を見つめた。二度も同じ手に引っかかるつもりはなく、俺は嫌だと短く断ってもう一度なまえに箱を押し返す。さすがに二度もされては諦めたのか「仕方ないなあ」と小さく言うと俺の手から箱を取って中をごそごそとかき回し始めた。よし、これでもう顔面にあんな衝撃を喰らうことはないな。未だ痛む鼻先を軽く擦りながら安堵の息を吐く。


「一之瀬、プレゼント!」
「…なまえ、いい加減に、」
「ねえ、見て見て!」


なんだ、まだ懲りてないのかと少し恨めしく思いながら鼻先を撫でていた手を退けてなまえを見る。と、そこにあったのはあの箱と、それからもう一つ、可愛らしく包装された小さな透明の袋。中には色んな形のクッキーが入っていて、俺は思わず目を疑う。その袋と照れたように笑うなまえを交互に見遣った。


「一之瀬は忘れてるかもしれないけどさあ、今日で私たち、付き合って一か月なんだよ!」
「え、」
「…いつもはこうやって悪戯ばっかりしてるから、今日はちゃんとしたプレゼントを用意してきました」


どうぞ!と言いながら俺の手にその小さな袋を乗せるなまえ。まさか彼女がそんなことを覚えているとは思わなかったから思わず呆然としてしまうけれど、徐々に頬が緩んでいく。俺は思わずなまえに抱きついた。


「なまえ、大好きだ!」
「うん、私も悪戯の標的になってくれる一之瀬が大好きだよ!」
「あれ?」


恐ろしい言葉が聞こえたと同時、俺の後頭部は例のグローブによって思い切り強く殴られた。



欠点含めてみんな好き!

(…でもそういう悪戯はやめて欲しいなあ)(えー、つまんなーい)(他の人にはやらないの?)(やらないのー)(あ、そう…)


***
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