「は、ははは、半田あああ!!」


授業も終わり放課後、いつものように部室でユニフォームに着替えようと思っていたところ。遠くから名前を呼ばれたなあと思いながら振り返ると、とてつもない勢いで何かが俺の胸に飛び込んでくる。受身なんて取っていなかった俺はその勢いに負け声を掛ける暇もなく情けない声(音と言ってもいい)を上げるとそのまま地面に後頭部を激しくぶつけた。幸い部室には俺しかいなかった為誰にも見られずに済んだものの、今のはとてつもなく、恥ずかしい。


「ちょ、おまっ…何するんだよ…!」


なまえ、と声を掛けてみれば俺に勢いよくぶつかってきた張本人は目を潤ませて顔を上げる。今にも泣きそうなその表情に思わず言葉を失い、俺は未だ俺に圧し掛かったままのなまえの顔を覗き込んだ。


「ど、どうかしたのか?」
「うっ、う…あの、あのね、」


ぐずぐずと鼻を啜る音に掻き消されて言葉がよく聞こえないとりあえず落ち着かせようとなまえの肩を押してみたら逆に背中に回した腕に力を込められて起き上がれなくなってしまった。こんな状況をマックスなんかに見られたら悲惨だなあと考えて頬を引き攣らせつつ、なまえを落ち着かせようとその背をぎこちなく撫でてみる。


「言ってくれなきゃ分からないだろ」
「…転んだ」
「は?」
「転んだの!そこで!」


すっごく痛かった!と騒ぎながら打って赤くなった膝を見せつけようとようやく俺から離れるなまえ。俺はそれだけのために後頭部を犠牲にしたのか…と内心溜息を吐きたい気持ちでいっぱいになりながらそっと上半身を起こす。


「…なんで保健室じゃなくて俺のとこに来たんだよ…」
「だって痛かったから!」
「いや、理由になってないって」


俺は幼いころからなまえを知っているけれど、こいつが幼稚なところは相変わらずだと思う。俺の目の前で大粒の涙を零し始めるなまえの頭をそっと撫でてやった。


「痛い…」
「分かった、分かったから泣くな!」


本当にどうして俺のところに来たんだと思いながら泣き止む様子のないなまえに対し、俺はどうすればいいか分からなくなる。泣くなと言っても泣き続けるし、俺にどうして欲しいんだこいつは。精一杯自分の頭で考えた後、俺はなまえの頭から手を離して赤くなった膝に手をかざした。


「はん、だ?」
「い…痛いの痛いの飛んでけー!」


部室を支配する静寂。俺はどうにも居た堪れない気持ちになった。中学生にもなった男が、い、痛いの痛いの飛んでけって…馬鹿か俺は!どれだけ幼稚なんだ!いや、これはきっと幼稚ななまえと長年一緒だったからに違いない。そうだ、俺のせいじゃないぞ。嫌な汗が垂れそうになるのを感じながら俺の頬は徐々に引き攣っていく。恥ずかしくてなまえの顔が見れない。そんな時だった。


「半田、ありがとう!」
「へ…?」


ゆっくり顔を上げるとそこには未だ涙の痕こそ残っているけれど先程と打って変わって明るい笑みを浮かべているなまえ。ぽかんとだらしなく口を開けたままの俺の手を彼女はその小さな両手でぎゅうっと握った。


「半田がおまじないかけてくれたから、もう痛くないよ!」
「え…そ、そうなのか?」
「うん!もう私、泣かない!」


まさかあれだけで泣き止むだなんて思ってもみなかった為呆然とする俺。でもなんとか泣き止んでくれたならよかったとほっと胸を撫で下ろしながら次第に俺も笑みを浮かべる。しばらくそのままでいるとなまえの腕が伸びてきて俺の首に回り、強く抱きつかれた。


「うわっ、な、なんだよ、」
「半田、大好き!」


恥ずかしげもなく俺の耳元でそう言うなまえと、そんな言葉にすら耳まで真っ赤になる俺。幼稚ななまえなんかにドキドキさせられる俺も俺だけど、こいつは本当にずるいと思う。
…それでも俺はそんななまえが好きなわけだから、



どうしようもないわけで!

(その翌日から、俺は何故かサッカー部の面々に痛いの痛いの飛んでけー!と言われ続けることとなる)(誰だよ盗み聞きしてたの!)


***
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未奈さまへ

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