※吹雪士郎
※吹雪がただの変態





「いつもなまえちゃんにはお世話になってるから、僕、なまえちゃんに感謝の気持ちを伝えたいんだ」


朝起きて準備をして学校に行き、出逢った吹雪士郎くんの第一声はこれだった。士郎くんは私の大好きな彼氏であり、大切な人なんだけど…少し変わってるというか、うん。私がストッパーにならないと何処までも暴走するタイプの人だ。だから私は思わず頬が引き攣った。こう言う時は、絶対何かある。


「うん、十分伝わったありがとう」
「酷いなあ、まだ何も言ってないのに」
「いや、本当伝わったからもういいよ」
「そう言わずに」


あえて話を流そうと先を読んだというのにそれもさらりとかわされてしまい、士郎くんは目を輝かせながら自分の席に座ったままの私を見つめる。その表情も目と同じく輝いているけれど、今の私は嫌な予感しかしない。生唾を飲み込んで、そっと彼に問い掛けた。


「…どうして急に、そんなことを?」
「急じゃないよ!ずっと思ってたんだ。ただ今日実行しただけ」
「そ、そう…でも私も士郎くんにお世話になってるし、お互い様だと思うなあ…」
「それじゃあ僕の気が済まないから。で、その感謝の気持ちなんだけど、」
「私の意見は無視ですか」
「プレゼントがあるんだよね」


私の話などまるで聞いちゃいない様子の士郎くんはそう言うと私の手を取り席から立ち上がらせた。朝のホームルームが始まるまで時間はまだ少しあるけれど、どうしたんだろうと首を傾げる私。笑顔のままの士郎くんは「ちょっと来て」と私の手を引いていく。一体何処に行くんだろう。
教室を出て廊下を歩き、辿り着いた先は空き教室。朝の時間だからかまだ誰もいない。私を先に入れた士郎くんが後ろ手に扉を閉めると同時、かちゃっという音がした。


「…何、今の音」
「気のせいだよ」
「いやいやいや、明らかに今かちゃって音したじゃん!」
「なまえちゃん、それ幻聴」
「私が危ない子みたいな言い方やめてもらえます?」


あはっと笑う士郎くんに慌てて突っ込んだけれど、彼はそんなことを気にすることもなく私に歩み寄る。目の前で立ち止まると、彼はポケットから一つの箱を取り出した。もちろん訝しげに思った私は箱と士郎くんの顔とを交互に見る。恐る恐る口を開いた。


「…なに、これ」
「プレゼント」
「いや、あの、そうじゃなくて…」
「プレゼント!」
「だから中身、」
「開けてみれば分かるよ」


ほら、と突き出された箱を渋々と手に取る。そう大きいわけではなく、ハンカチなどが入っているような箱だった。裏返してみたけれどタグがついているわけでもなく、ただの箱。開けなければ中身は分からないようになっていた。疑うばかりの私だけれど、目の前で「早く開けて」と言う風にきらきらした笑顔を浮かべる士郎くんの前から逃げる手段など、私は知らない(実際教室には鍵が掛かっているようだし)。私はそっと箱に巻きついているリボンを解いて、士郎くんの顔をちらりと見てから箱を開けた。
中にはピンク色の布が見えて、リボンがついている。それを見てほっと息を吐いた。なんだ、ハンカチじゃないか。変に怯える必要なんかなかった。


「…ありがとう士郎くん、素敵なハンカチだね。士郎くんが選んでくれたの?」
「ううん、違うよ」
「えっ、じゃあ誰が?」
「そうじゃなくて、それ」


士郎くんが指差しているのは私の手元にある箱。違う、とは?わけが分からない私はきょとんとした表情を浮かべて彼を見上げる。満面の笑みの彼は表情とは裏腹に、おぞましいことを口にした。


「それ、パンツ」
「ぶっ」


反射的に両手を横にスライドさせたと同時にハンカチ…もとい、パンツが入った箱がそのままの形で床に落ちた。少しずつ頬が赤くなる私は目を白黒させて士郎くんを見る。その笑顔はとても楽しそうだったけれど、何処か恍惚としたものを含んでいた。


「なまえちゃんに穿いて欲しくて」
「穿くわけないでしょ!」
「えー、折角選んだのに…」
「し、しかも士郎くんが選んだんですか!」
「うん、可愛いよね」
「可愛いけど…ってそうじゃない!」


士郎くんは床に落ちた箱を拾うともう一度私へと差し出してきた。中身を知った上で受け取れるはずがない、私は慌てて頭を左右に振って一歩後退しようとした。けれどその前に士郎くんの腕が伸びて私の肩を掴み、ぐいっと引き寄せる。気付けば私は士郎くんの胸の中だった。


「し、士郎くん、離して、」
「なまえちゃんがこれ穿いてくれるって言ったら、離してあげる」


士郎くんはやっぱり男の子で、私がもがいたくらいじゃびくともしなかった。眼前に差し出されるピンクのパンツ。私はもちろんのこと、もう一度頭を左右に振る。


「む、むむむ無理!」
「穿くって言ってくれなきゃ、ずっとこのままだよ?」
「士郎くん、もうすぐ授業が、」
「うん、だから早く言って」
「は、穿けるわけないでしょ…!」
「ねえ、なまえちゃん…」


お願い、と至近距離で私を見つめる士郎くん。長い睫毛がよく見えて私の心拍数が上がっていくのを感じた。ああ、ずるい、ずるい!そんな表情で見つめるなんて、


「あ、う…」
「穿いてくれたら何もしないから」
「ぜ、絶対?」
「約束する」


その笑顔に負けて、私は真っ赤な顔のまま首を縦に振る。どちらにせよこんなところを先生に見られるのも恥ずかしい、なら穿くくらいは…と決断したのだ。私は士郎くんからその箱を奪い取るとすぐに彼の腕の中から出ようとする。が、それは叶わなかった。


「…し、士郎、くん…穿いてくるから、離して」
「僕が穿かせてあげる」
「はあ!?」
「だからなまえちゃんは何もしなくていいんだよ」
「い、いや、何もしないって言ったじゃ、」
「穿かせるだけ、だよ」


にっこりと笑うその表情には何処か裏があるようにも思えた。私が抵抗しても結局力の差は歴然としているわけで。嫌だ嫌だと首を振っても士郎くんは結局聞いてはくれなかった。


「大人しくしててね、なまえちゃん」


今日は朝から災難な一日だ、と身動きの取れない状態の自分を見ながら項垂れた。



結局のところ好きなんだけど

(やっぱり士郎くんが約束を守ってくれることはなく、私はその後腰痛で学校を早退することとなった)(…それでもそんな士郎くんも好きなんだよなあ)



***
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亀野さまへ

100108

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