全て知っている側として見ていて、とてももどかしいと思った。
ゆいは俺の大切な友達だ。それから、一之瀬も友達。秋もだし、西垣も。あのアメリカで過ごした思い出も、大切。
だからこそ、初めてゆいがその思い出の一部が抜けていると知った時、とても悲しかった。俺のことを忘れているわけじゃなくても、だ。一度そう聞いてからゆいに問い詰めるようなことはしなかったし、それ以降はその話題になるべく触れないようにしてきた。

そんな時だった、一之瀬一哉が生きている、日本に帰ってくると秋に聞いたのは。

嬉しかったし、安心した。これでゆいも無くした思い出の欠片を取り戻すんだろうと思った。でも、そんなことはなかった。
ゆいはもう以前のように一之瀬のことを下の名前で呼ぶことはなかったし、その上刺々しい態度。逢えば少しでも変わると思っていた俺でさえも、ある意味では衝撃的だった。徹底的に否定し、自分じゃないと言い切る。多分もし今またあの話をされても、ゆいは別人だと答えるんだろう。…ぼんやりながら思い出しかけているとしてもだ。
それから俺は二人のことを傍観者として見てきたつもりだ。影ながら応援していたし、いつか記憶が戻ればいいと思っていた。だからゆいの口から少しでも昔の話が出た途端異常なまでに喰い付いてしまったんだ。とても嬉しいと思った。

ここまで話して勘違いされると困るから先に言っとくが、俺は別に藤城ゆいが好きなわけじゃない。…いや、好きだけど恋愛対象ではないってとこ、か。多分それはゆいも同じで、いい友達だと思ってくれてればいい方だ。それは俺も同じ。
だから友達として、あの二人には引っ付いてもらいたいもので。昔のように仲良くしてもらいたいっていうのが俺の望むところ。一之瀬とゆいをいつも心配そうに見ている秋もきっと俺と同じ気持ちなんだろう。またあのメンバーで笑って話をしたいと思っているのではないか。

別にダークヒーローを演じたいわけでもなければ、恨まれ役に憧れていたわけでもない。でも少しくらいなら二人を手伝ってやってもいいかと思った。きっとこのままじゃお互いに何もしないまま終わってしまう気がする。ゆいの記憶も曖昧なまま残ってしまい、一之瀬の名前を思い出すこともないだろう。それなら、簡単な手助けくらいはできるかもしれない、と。

俺に笑いかけたゆいから俺の顔が見えないようにとぐしゃぐしゃと頭を撫でてやる。静止の声が聞こえるけれど、そんなの無視だ、無視。
ふと前も見る。すると偶然か必然か、一之瀬が視線だけで此方を振り返っていた。少し驚いた表情を浮かべる一之瀬を見て、俺はにっこり笑いかけてやる。その笑顔をどう取ったのかは、分からないけれど。


(さて、お前はどう出るかな)


頭の中で考えられるほど上手く物事が進めばいいんだけど、とのんびり考えながら、俺はゆいの頭から手を離した。













「そんなのおかしいよ、何も土門くんがそんな役しなくても!」
「大丈夫だって、あいつらならすぐくっつくさ」
「で、でも、一歩間違えたら色々大変なことに…」
「見ててもどかしいのは、俺だけじゃないだろ?」


俺の考えを全て秋に話すと、もちろんながら凄まじい勢いで反論された。なんとなくわかってはいたけれど、あまりに予想通りで頬が引き攣る。秋はむっとした表情のまま、ずいっと俺に詰め寄った。


「黙って見守ってた方がいいかもしれないでしょ」
「でも、このまま終わっちまったら台無しじゃん」
「それはそうだけど…」
「だから、少しくらい助け舟を出してやってもいいかなって」


果たしてこれが助け舟になるかどうかはともかく。肩を竦めながら言うと、とうとう秋も折れたのか盛大に溜息を吐いた。


「まぁ最終的にどうこうするのはあの二人だからさ」
「…わかったわよ、なら出来ることは私も手伝うから。ゆいちゃんにちゃんと思い出して欲しいのは私だって同じなんだからね」
「うん、そうだな」


一度好きになって、記憶がなくなって、また同じ相手を好きになった。同じ相手にまた惹かれたんだ、あの二人ならなんとかなるだろう。根拠はないけれどなんとなくそう思って、俺は自然と笑みを浮かべた。


「ゆいが全部思い出したら、西垣も誘ってまたみんなで昔の話でもしようぜ」
「そうだね、また昔みたいに話せるかな」
「そうするために、俺と秋が一肌脱ぐんだろ?」


あの時、約束を交わしたみんなでまた笑えるように。
さて、恋のキューピット役でも務めてみようか。



ハロー
Mr.Liar

(でも土門くんがキューピットって、なんか変だね)(変とか言うなよ…)



***
最初で最後だと思われる土門のターン。アメリカ組は絡ませたくなる。






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