「なまえ!ちょっといい?」


不意に名前を呼ばれてそちらを向けば教室の入り口でニコニコ笑っている私の彼氏、一之瀬一哉くん。ああ、そうか、そういえば今日はバレンタインデーだったか、一之瀬くんもそれを貰いにきたのかな、と思いながら用意してきたチョコを片手に彼に近寄る。学校全体がバレンタインな雰囲気で、なんだか甘い香りがしてきそうだった。


「はい、一之瀬くん。ハッピーバレンタイン!」
「え?俺に?」


差し出せばきょとんとした表情の一之瀬くん。あれ、これが目的じゃなかったのかな?そう思っていると「ああ、そっか」と一之瀬くんが声を上げる。


「日本じゃ女の子から男の子に送るんだったね」
「え?なにが?」
「アメリカだと逆なんだよ。男の子が女の子に物を贈るのがバレンタインの決まりなんだ」
「へえ、そうなんだ…」


知らなかったなあと言えば「でもこれは貰う!」と満面の笑みで一之瀬くんは私の手からチョコを受け取った。まあこれでいらないって言われたら自分で食べるしかないわけだから悲しいんだけど。


「それでね、なまえ。俺も用意しちゃったんだ、バレンタインの贈り物」
「そうなの?えっと…もらっちゃってもいいのかな」
「もちろん!なまえのために用意したんだから」


そう言うと一之瀬くんは制服のポケットをごそごそと漁って一つの小さな箱を取り出した。それから片手で私の手のひらを引いてその上にそっとその箱を乗せてくれる。きょとんとした表情で一之瀬くんを見ると、彼はにこにこと爽やかな笑顔で箱を開けた。中に入っていたのは可愛らしい指輪。


「なまえ、いつか絶対俺と結婚しよう!」
「い、ちのせ…くん…!」
「これはその予約のための指輪。つけなくてもいいから、大切に持ってて欲しいな」
「…う、うん!ちゃんと大切にするよ!」


頬が熱くなっていく。一之瀬くんは嬉しそうに「ありがとう!」と言って不意に私の耳元に顔を近づける。囁かれた言葉はきっと、私にしか聞こえてない。


「ちなみに先に頼んどくけど、お返しはなまえがいいなあ」
「!」
「もちろん、なまえへのお返しは俺自身って決めてるけどね」


それじゃあまた!
そのまま私の頬にキスして軽く手を振ると一之瀬くんは自分の教室へと戻っていった。私はただこれでもかというくらい顔を真っ赤にしてその場に蹲るしかない。ああ、もう、一之瀬くんの馬鹿!恥ずかしいけど、嬉しいことばかりじゃないか…!高鳴る胸は、どうやらすぐには収まりそうにはなかった。


「どっ、どど、ど、土門くん!わ、私、一之瀬くんにプロポーズされちゃった!」
「お前ら本当にバカップルだよな…」



100214/ホットココアに角砂糖

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