※アツヤ生存設定





「ねえ、なまえちゃん」


名前を呼ばれて顔を上げると柔らかい表情で微笑んでいる士郎くん。どうしたの士郎くん、そう声を掛ける前にぐいっと肩を引っ張られた。


「おいなまえ」


士郎くんと同じような声で私の名前を呼ぶのはアツヤくん。二人は兄弟で、私は小さいころから吹雪兄弟とよく遊んでいた。気付けばいつも三人で一緒だったし、今もそれは変わらない。少し不機嫌そうな表情を浮かべているアツヤくんも、変わらない。


「ちょっとアツヤ、なまえちゃんは今僕と話してるんだけど」
「うっせーな、兄貴は後でもいいだろ」
「あのー…」
「よくないよ。アツヤこそ大した用事じゃないんでしょ」
「あ?少なくとも兄貴よりはちゃんとした用事だ」
「すみませーん…」
「言ってくれるね、アツヤ。お兄ちゃんの言うことはちゃんと聞くものだよ」
「こんな時だけ年齢のこと出してくるんじゃねえよ。大体そんなの関係ねーだろ」
「私の意見は無視ですか」


二人はいつも出会えばこうだ。大体はアツヤくんが士郎くんに突っかかっていくのが原因なんだけど、士郎くんも士郎くんでにこにこ笑みを浮かべながらアツヤくんに言葉を浴びせていく。そんなところは似たもの同士だなあと思った。そうだ、と士郎くんがぱんっという軽い音を立てて手を叩く。私とアツヤくんはその手元に注目した。


「なまえちゃんに決めてもらえばいいんだよ、僕とアツヤ、どっちと話したいのか」
「え」
「そんなことしなくても、もう答えは決まってるよなあ?なまえ」


急に私の肩に腕が回され、視線だけで横を見ればニヤニヤしたアツヤくん。変に圧力を掛けないでいただきたい。そう思っていると私の目の前には優しい笑みを浮かべた士郎くん。こっちはこっちで笑顔の下に隠された本性が恐ろしい。


「そうだよね、なまえちゃんは僕と話したいよねー」
「兄貴がそんなこと言うとなまえが答えられないだろ、少し黙ってろ」
「黙るべきなのはアツヤだ。まずなまえちゃんから手を離した方がいいんじゃない?」
「あの、三人でお話するっていうのは…」
「「却下」」


ああもう、こういう時だけ息ぴったりだなんておかしすぎる!なんだこの兄弟は。そう思いながら引き攣る頬を戻す術を私は知らない。溜息を吐くと不意に横から「チッ」と小さく舌打ちする音。確か隣はアツヤくんがいるわけで、舌打ちするほど今は不機嫌なわけで。


「あ、あの、アツヤくん…?」
「ったく、めんどくせえな」
「え?な、なに、」
「決められないなら、俺と話したくなるようにしてやるよ」
「あっ、アツヤ!」


士郎くんの慌てたような声が聞こえたと同時、私が横を向いたのと同時、アツヤくんの綺麗な色の眼と視線が絡んだのと同時。私の頬に触れるアツヤくんの手付きが優しいなあと思っていたら私の唇に柔らかいものが触れた。一瞬だけ。目を丸くするしかない私は精一杯脳をフル回転させて現状を把握しようとする。ああ、つまり、今のって。


「どーも、ご馳走様」
「えっ、えっ…あ…!」
「アツヤ、抜け駆けは卑怯だぞ!」
「知らねえよそんなもん。早い者勝ちってな」


理解し始めた私の頬に熱が集まっていく。私の前で満足げに笑うアツヤくんがいつもの何倍もかっこよく見えて、士郎くんと違う少し上を向いた髪が冷たい風に吹かれて、それをまるで人事のようにぼんやりと眺めていた。


「で、俺と兄貴、どっちと話したいんだ?」


答えはもう、決まっている。





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