「なまえは、俺のことが好き?」


そう聞いて、すぐに後悔した。なまえは一瞬驚いたような表情を浮かべたけれどそれをふんわりとした笑みに変えてゆっくり頷く。分かってる、彼女がこう返してくれることくらい。


「うん、好きだよ」


どうしたの一之瀬。どうかしたのは君の方だ、なんて言えなかった。そんな悲しそうな目をしてどうして笑うんだろう。彼女の意図が掴めなくて俺は手のひらを強く握った。


「…本当はもう好きじゃないんじゃないの」
「え…」
「他に好きなやつができたとか」
「ち、違うよ」
「違うならどうして、そんな顔するんだ」


どうして悲しそうな目をして笑うんだ。悲しいのは俺なのに。こんなになまえが好きで好きで仕方が無くて、持てる限りの術で彼女にこの気持ちを伝えているはずなのに。それでも彼女の心だけは手に入らない。どうしても、どうしても。


「…私は一之瀬が好き、だよ」


そうやってまたなまえは笑った。何も答えずに悲しそうに、でも何か言いたそうにして笑うんだ。そんな笑みを向けるから、俺はそれ以上何も言えなくなって、同じように笑い返しながらこう返すしかない。


「俺も、好きだよ」


俺には君しかいないんだ。彼女の瞳に例え別の誰かが映っているとしても、心が手に入らないとしても、その言葉が偽りだとしても、全部気付かない振りをしていればなまえの傍にいられる。俺はただそれだけで十分だと思うしかないんだ。


「大好きなんだ」


心の何処かで、何かが軋む音が響いた。


(俺を見てくれないその瞳が愛しく、愛を囁くその声が憎かった)


100121

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