「アツヤは本当に優しいね」
「あ?」
あからさまに怪訝な表情を浮かべて振り返る彼に、私は思わず笑みを零した。唐突な言葉の意味を捉えきれなかったんだろう。一歩アツヤに近づいて、冷たいその手を取った。
「士郎くんのこと、いつも気遣ってる」
「…そんなんじゃねえよ。俺は俺のしたいようにしてるだけだ」
「そういうとこも優しいよ」
「なんだよ急に」
普段は言わねえくせに。そう言う彼はもっともだと思う。私は普段からアツヤに愛の言葉なんて囁かないし、何かあればすぐ罵声を浴びせているような気さえする。でも本当はいつでもアツヤの優しさに甘えていただけだった。
「なんかあったのか?」
「ううん、思ってたこと言っただけ」
「…普段からそれくらい素直になればいいのによ」
「う、うるさい」
私らしくないことを言ったからか、少しずつ頬が熱くなるのが分かった。それを悟られまいとアツヤの背に腕を回してぎゅうっと抱きついてやる。でもそんなの、とっくに彼にはバレていたみたいで。
「照れ隠しか?らしくねえな」
「…前言撤回。やっぱり優しくない」
「はっ、今更」
褒め言葉をどうも、と皮肉を一つ浴びせられて、アツヤの腕が私の背に回る。その背を撫でてくれる手は口調とは裏腹にとても温かくて、優しくて、アツヤの優しさがそのまま伝わってきた気がした。やっぱり私は、彼から抜け出せない。
「大好き」
「そんなのとっくに知ってるっつーの、馬鹿」
そう言う彼の耳朶に、そっとキスをした。
Foolish Love
(それでもどうかこの時が、永遠でありますように)
100118/フーリッシュ