ねぇ、ちょっとだけサボろっか。


そう隣のクラスの彼女、みょうじなまえに誘いかけられて俺は今、その張本人と二人で屋上にいる。別にサボることに抵抗はなかったし、今の授業も特に面白くなかったし、その誘いは正に好都合だった。
それに違うクラスだから、授業中はみょうじのこと見れないし。
そんなことをぼんやり考えていると、急にごろんとみょうじが俺の隣で仰向けに転がった。背伸びをしてる時の声がやけに色っぽかったとか、そういうのは頭の隅にやる(本能で生きてるわけじゃないんだし)。


「風丸ー」
「なんだ?みょうじ」
「どうしよう」


ぼうっと空を眺めていると、すぐ横から不安定な声色が聞こえてきた。まさか何か悩み事でもあるんだろうか?だからこうして俺をサボりに誘ったとか?…そう考えて、俺は真剣な表情でみょうじを振り向く。
…が、其処には目をごしごしと擦りながら大きな欠伸をするみょうじの姿。


「すっごく眠い…」
「…寝ればいいじゃないか」


…なんだ、心配して損した。思わず口元が引き攣る俺に気付いているのかいないのか、みょうじは「うーん」と曖昧な返事を返して寝転んだまま座っている俺の腕を緩く掴む。風に靡く長い髪が綺麗だと思った。


「でも、折角風丸と二人きりなのに」


そんな中唐突にこんなことを言うものだから、
とくんと胸が高鳴ると俺は不意打ちを喰らったような気持ちになり、同時に愛しさを覚える。なんだよ、この可愛い生き物は。
今度はにやける表情を隠そうともせず、みょうじに掴まれていない方の手で彼女の髪を梳くように撫でた。気持ち良さそうに目を細める表情から、きっともう意識の半分は眠りに落ちているんだろうと悟る。


「いいさ、隣にいてやるから、ゆっくり寝ろよ」
「ん…」


それから安心したように薄らと微笑むと、みょうじは目を閉じ、次第に規則的な寝息を立て始めた。その寝顔も愛しくて、可愛らしくて、俺はつい自分を抑えられなくなりそうになって。いや、だからってみょうじには嫌われたくないから、そりゃ、本能は抑えこむけど。「でも、これくらいならいいよな」と寝ているみょうじの唇に指先でそっと触れてから、今度は自分のそれを重ねた。柔らかくて、温かかった。


「愛してる、なまえ」


授業が終わるころには起こしてやろうと、俺はまた空を見上げた。



091124/おやすみ眠り姫

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