まず、私は中学生だ。つい二年前に小学校を卒業したばかりの、ただの子供。恋愛だのどうだのを語るには早すぎる年だと思う。私だけじゃなく、同じ年の子もみんな、そう。愛だの恋だの、そんなものはもっと大人になってから学ぶものだと思う。大体子供のうちにそんな運命的な出会いなんてあるはずがない。
私のクラスに帰国子女の男の子が転校してきた。笑顔が素敵で女の子たちの目がハートになっている。確かに容姿もいいし、かっこいいとは思う。けれど結局は彼も14歳、私と同じ年なのである。まだまだ子供だし結局恋愛云々については早いと思った。はあ、と溜息を一つ。
そんなことをしている間にがたんと隣で音がして、気付けばそこには転校生の男の子が椅子に手を掛けて立っていた。どうやら其処に座るらしい。名前は、ええっと、確か。


「俺、一之瀬一哉。よろしく」


そうそう、一之瀬一哉くん。太陽のような眩しい笑顔に圧倒されてしまったけれど、慌てて首を左右に振りぎこちなく笑みを浮かべた。


「みょうじなまえです。よろしく」
「みょうじね、分かった。悪いんだけど、教科書見せてもらってもいい?まだ持ってなくて」
「どうぞどうぞ」


持っていた教科書を彼の机と私の机に半分ずつ乗るように置いていると近くからひそひそと「みょうじさんいいなあ」という声が聞こえてきた。私は別に嬉しくもなんともない。むしろできることなら変わってあげてもいいんだけどなあと考えていると不意に「ねえ、」と声を掛けられる。そちらへ目を向けると、一之瀬くんの大きな目が私をじいっと見ていた。


「なに?」
「みょうじ、今日の昼休みなんか用事ある?」
「え、いや、特にないけど」


昼休みといえばいつも友達三人くらいでお昼を食べてぼんやりしているくらいだ。だから用事なんてものは何も無いし、暇していると思う。そう考えると一之瀬くんは「そっか、よかった」と屈託の無い笑みを浮かべながらこそこそと声を潜めて話してきた。


「じゃあさ、みょうじさえよかったらこの学校案内してくれよ。俺まだよくわかってなくて」
「わ、私?でもそんな、男の子の友達とかの方がいいんじゃ…」


ただ隣の席になったというだけで私に頼む必要なんかないだろう。それに私たちは中学生だ、ただ隣を歩いているだけでも付き合っているだのどうだのこうだのと面倒な噂が流れやすいというのに、こんな私と噂が立っては一之瀬くんの方が面倒ではないのか。そう思って首を傾げる。けれど目の前の彼は笑顔のままで、緩く頭を左右に振った。


「俺はみょうじに案内して欲しいんだ」


どきっと胸が高鳴る。…うん?おかしくない?私はまだ中学生で、恋愛云々なんかに興味もなくて、むしろ馬鹿馬鹿しいと思っていて!それなのに、なに、どきって。


「頼むよ、みょうじ」


頬杖を突きながら私を見る一之瀬くん。その笑顔は眩しくて、結局私は見惚れてしまって、魔法に掛けられたみたいにゆっくりと首を縦に振った。
愛だの恋だの、そういうものは大人になってから学ぶものだと思う。だからこれは恋なんかじゃなくて、そう、彼の笑顔に憧れただけ。一之瀬一哉くんを好きになったわけじゃなくて、その笑顔が好きになっただけ。それだけだ。



はじめましての魔法

(数日後、私は一之瀬くんがフィールドの魔術師という異名を持つことを知る)



100111

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