「雲ってわたあめみたいだ」


うとうととまどろんでいた意識の中、不意に耳に届いた言葉で目を覚ます。河川敷の横の草原に一之瀬と二人して寝転んで、私たちはぼんやり空を見上げていた。こっそり授業を抜け出して「休めるところに行こう」って一之瀬が誘ってくれたからついてきて、辿り着いたのが此処。二人でごろんと横になったのがつい5分くらい前のこと。授業をやっている時間だからか河川敷を使っている人は見当たらず、辺りには私と一之瀬の二人だけ。そこで冒頭の言葉。私は顔だけ彼の方へと向ける。


「わたあめ?」
「うん、ふわふわしてて、真っ白だろ?わたあめも雲も」
「確かにそうだけど…一之瀬お腹減ってるの?」
「減ってないよ。ただそう思っただけ」


届きもしないのに彼は空へと腕を伸ばしてそれを掴むように手を動かす。私は未だぼんやりする頭のまま真似するように空へと腕を伸ばしてみた。視界に映るのは青空と、彼と私の手。


「たまには授業を抜け出してみるのもいいかもね」
「…そうだね。つまらない授業を受けるよりは、こうやって一之瀬と過ごす方が幸せ」


そう言ってまた隣を見ると、一之瀬が驚いたような表情を浮かべて私を見ていた。するとその表情が少しずつ綻んでいって、次第に照れ臭そうな笑顔を浮かべる。空へ伸ばしている手に一之瀬の指が絡んで、ぎゅっと握られた。


「俺も、なまえとこうやって過ごす時間が一番幸せだよ」
「そっか。嬉しいな」
「でもなんか…眠くなってきちゃった」


ふわあ、と大きな欠伸を一つ。一之瀬は繋いだ手を私と彼の間に下ろし、もう片方の手で軽く目を擦った。それに釣られて私もふわあ、と欠伸を一つ。目尻に涙が溜まったのを指先で拭うと、一之瀬に笑いかけた。


「…私も。お昼寝しよっか、一之瀬」
「それ賛成」


お互いに顔を見合わせるとくすくすと笑いあって、一之瀬が繋いでいない方の手で軽く私の髪を撫でる。


「おやすみ、なまえ」
「ん…おやすみ、一之瀬」


私たちの間を吹き抜ける温かい風を感じながら重い瞼を下ろす。意識を手放す少し前、私は繋いだ手を少し強く握り返した。



君のとなり

(どれだけ先の未来でも、こうして貴方の隣で笑っていたいなあ)



100108/君のとなり

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