彼女の血はきっと甘いんだと思った。その白く透き通った肌の下で脈打つそれは、きっと甘いんだと。何度も何度も深く口付けながら、頭の中をそんな考えが過ぎる。
噛み付くような口付けを繰り返すうちに、僕は軽くその唇に歯を立てた。小さく彼女の肩が震えて、驚いたように僕の肩を押す。


「いっ…吹雪、くん…?」


少し離れてみるとその唇から覗く真紅。僕は虚ろな瞳のまま吸い寄せられるようにまた唇を寄せると、彼女の下唇をゆっくり舌先でなぞった。震えた甘い吐息が掛かる。
舌先に触れた少量の彼女の血は、鉄の味がした。未だ咥内に残るその風味を味わうかのように、また、彼女自身に味わわせるために、僕はもう一度彼女に深く口付ける。


「好きだよ、なまえちゃん」


溢れ出るこの思いは一体何なのだろう。止まらない、止められない。舌で彼女の気持ちを探ろうとしたけれど、触れ合う其処からは何も伝わってこなかった。ただ彼女が精一杯なのだということだけが、伝わってきた。そんな彼女が愛しい。僕を満たしてくれる。


「大好きなんだ…」


だから欲しくなる。気持ちも、彼女自身も、彼女を構成する全てのものが。僕はおかしいんだろうか、ふと不安になった。けれどそんな気持ちも彼女が僕の首に腕を回したことで何処かへ行ってしまう。


「わ、たしも…大好き、だよ…っ」


どうして君はそうやって僕を甘やかすんだろう。どうしようもない気持ちを覚えながら、けれどその優しさをとても嬉しく感じながら、僕はもう一度その下唇に舌を這わせる。

それは鉄の味がして、僕の咥内にほんのりと甘い香りを残した。



溢れた真紅

(もしも僕が吸血鬼なら、彼女の血を一滴残さず吸い尽くすのに)




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