「チョコレートが食べたいの」


みょうじなまえは俺の目をじっと見つめながらそれだけ告げた。俺の口の中にはたった今投げ込まれた唯一の一口サイズのチョコレート。包み紙を手にしながら三秒半考えて、首を傾げる。


「もうないよ」
「チョコレート」
「今食べた」
「チョコレート!」
「だからないって」
「私のチョコレート!」


むうっと頬を膨らませる様子はまるで駄々を捏ねる子供のようだ。今の俺たちの年齢でも十分子供なんだけれど、さすがにここまで駄々を捏ねるほどではないはず。精神年齢の低いなまえに俺は苦笑を浮かべざるをえなかった。


「わけてあげようか?」
「包みに入ってるやつが欲しい」
「…お見通しってことか」
「ちゅーしてもらえるなら飴の方が嬉しいもん」
「…飴も持ってないよ」


そこからは「飴が欲しい、飴をちょうだい」と駄々を捏ねだすなまえ。本当に手の掛かるお姫様だなあと思いながらも離れられないのは、そんな彼女が好きだから。可愛くて仕方がない、俺だけに懐いてくれる可愛いお姫様。


「飴が食べたいよー」
「なまえ、無いもの強請りしても意味ないよ」
「うー」
「俺が今持ってるものを欲しがって欲しいな」


口の中で固形だったチョコレートが形を無くし、甘ったるい風味だけが残る。軽く両手を広げて見せたけれど、俺は今何も持っていない。持っているとしたら今着ている雷門中のジャージと、その下に着てるユニフォームと、俺自身くらい。ああ、あとチョコレートの包み紙。俺のことを上から下まで面白くなさそうな表情で見たなまえは不機嫌な表情のまま「何も持ってないじゃん」と呟いた。


「あ、」
「ん?」
「見つけた、一之瀬くんが持ってる私の欲しいもの」


不機嫌な表情が途端嬉しそうに綻んだかと思いきやなまえが一歩俺に近づいて、その腕をぎゅうっと背に回された。驚いた俺が首を傾げたままでいると胸の辺りに顔を埋めていた彼女の顔が上げられる。そして、満面の笑みを浮かべた。


「甘いものは我慢するから、ぎゅうってして、一之瀬くん」


釣られて俺の頬も緩んでいく気がした。まったく、なまえには適わない。この世界一我儘で、可愛いお姫様には。


「仰せのままに、プリンセス」


そう冗談めかして言ってなまえの背に腕を回すと、彼女はまた俺の胸に顔を埋めながら嬉しそうに笑った。



本当に可愛い我儘だね!

(なんて言ったら調子に乗るだろうから、言わないけど)



100105/可愛い我儘

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