※ジェネシス戦後ネタバレ






この世はいつでも選択肢は二つに限られているものだ。YESあるいはNO、それ以上でもそれ以下でもない。それ以外で例えるなら正義が悪か、真実か偽りか、勝利か敗北か。俺にとっては今、その最後のことが一番重要となっている。
フットボールフロンティアで優勝し一週間が経った。自らを宇宙人と名乗る奴らが次々と学校を破壊していく中、俺たち雷門イレブンは立ち上がった。宇宙人のチーム、ジェミニストームと戦う為に。
各々レベルアップをし、特訓を重ね、ジェミニストームを倒した。これで平和が戻ったかと思いきや、今度はイプシロンというチームが現れた。まだ終わらない、先の見えない戦いに俺は眩暈を覚えた。まだ、続くのかと。でもこれを倒せば終わりだ、今度こそ終わりなんだと自分に言い聞かせた。でも、そうじゃなかった。
いくらあるか分からない宇宙人のチーム。その全てが身体能力に長けていて、人間と思えないほどのパワーを持っていた。今の自分じゃ限界を感じた。とても彼らには適わない。

俺にとって円堂守は良き友達であり、大切な仲間である。それと同じくみょうじなまえも大切な人だ。友達などではなく、好きな人。俺は彼女を守りたいと思った。だから力が欲しかった。誰にも負けない強大な力、ジェミニストーム、イプシロン、そしてそれ以上のチームにも負けないくらいの力が。


「風丸、」


揺れる声が耳に届いて、ようやく俺は前を向く。驚愕を露にした愛しい彼女。俺は優しく微笑んでみせた。


「久しぶり、みょうじ」
「なに、その格好」


みょうじの唇が震えて、信じられないものを見るような視線と絡む。俺は今雷門中のユニフォームを着ているわけではない。黒い上着を着て、いつも高いところで結んでいた髪を解いている。そうだな、確かに珍しい格好なのかもしれない。


「おかしいか?」
「そうじゃ、なくて…なんでユニフォームじゃないの?」
「ユニフォームなら着てるさ、この下に」


そう言って上着を捲る。俺が身に纏っているものを見てみょうじは更に顔を青くした。雷門中のユニフォームがそんなに気に入っていたのだろうか。…否、そうではないのだろう。


「…ま、まるで宇宙人みたいなユニフォームだ、ね」
「察しがいいな、みょうじは」
「…どういうこと」
「俺、強くなったんだぜ」


解いた髪を指先で弄びながらそう告げる。それはするりと指の間をすり抜け、指から離れた。また上着を綺麗に戻して一歩、みょうじに近づく。彼女の片足が一歩、下がった。


「誰にも負けないくらいにな」
「…どうしてよ、風丸。それ、キャプテンたちを裏切ったってこと…?」
「裏切る?それとはまた違う」


円堂たちを追い越しただけの話だ、と言ってまた笑いかけた。一歩彼女に近づく。彼女は一歩下がる。縮まらない距離、変わらない距離。


「なんでっ…キャプテンは風丸が戻ってくるって信じてたのに!ずっと待ってるって言ってくれてたのに!」


途端目の前の彼女の表情が歪んだかと思えば、その澄んだ大きな瞳から涙が一粒、また一粒溢れ出した。それを拭おうとまた一歩踏み出したけれど、彼女は一歩下がる。と、その背中が背後の壁にぶつかった。これ以上下がれないことを知ったみょうじが息を呑んだ。俺は一歩、近づく。


「ああ、だから待っててもらったんだ。俺が追い越せるように」
「私も、信じてたのに…っ」


もう一歩踏み出せば、もうなまえは俺の目の前だった。片手をそっと伸ばし、濡れた頬に触れる。以前のなまえは幸せそうにはにかんで俺の手を包んでくれたはずなのに、違った。嫌そうに頭を左右に振ると、涙が溢れる瞳のまま強く俺を睨みつける。違う、こんなはずじゃない。


「…俺はみょうじを守るために強くなった」
「キャプテンやみんなを裏切ってまで、強くなんてなって欲しくなかった」
「じゃああのまま宇宙人に負けてたら?みょうじを守ることなんてできなかった。…みょうじ、俺は強くなってお前を迎えにきたんだ」
「迎え、に…?」


訝しげな表情を浮かべるみょうじの頬にもう一度触れて、其処から顎へと滑らせる。軽く力を加えると必然的に上を向く彼女が堪らなく愛しくて、俺は頬が緩むのを感じた。


「みょうじ、俺と一緒に来い」
「っ…」
「誰にもお前を傷付けさせない、ずっと俺が守る。だから一緒に、」
「嫌、だ!」


突如耳に届く叫ぶような声。みょうじの目からはまだ涙が溢れていた。思わず目を細める。


「私はキャプテンやみんなと一緒にいる。風丸に守ってもらわなくても、私にはみんながいる!」
「…俺より円堂を取るってことか?」
「…今でも風丸のことは好き。でも、キャプテンたちを裏切ったならあなたは私の好きだった風丸じゃない」


みょうじが好きだった俺じゃない。イコール、今は俺を好きだと言ってくれない。かちゃりと歯車が噛みあうような音が俺の中で聞こえた瞬間、だんっと凄まじい音を立てて俺は右腕を彼女のすぐ横の壁に突いた。びくっと小さく震えるみょうじを尻目に顎にかけた手はそのままに顔を近づける。


「今も昔も、俺は俺だ」
「っちが…う」
「違わない。みょうじを好きだったのも、みょうじを守りたいと思っていたのも、今みょうじの目の前にいるのも、全部全部全部、俺だ」


それでも尚話を聞こうとしないみょうじに対し小さく溜息を吐いてみせると、俺は翡翠色の石を取り出す。手のひらで冷たく光るそれを見たみょうじは怯えたような表情を浮かべた。俺の中の汚い支配欲が、俺自身を満たしていく。


「お前も力に触れれば分かる。俺が裏切ったわけじゃないんだって」
「や、やだ、それ何…?離して、風丸、」
「これで俺の傍を離れられなくなる。力が必要だって分かれば」


恐怖の色を灯したみょうじの大きな瞳にその石が映り、一瞬輝く。そしてその震える唇に噛み付くようにキスをしながら俺はその石を彼女の胸に押し当てた。力を欲するように、俺をまた、求めてくれるように。


よければ1曲ご一緒に、

(どんな手を使ってでも強くならなくてはならない。誰かを守るためには強く、強く、強く、強く、強く)(そしてまたネジは巻かれて曲を奏でる)


100105/貪欲オルゴール

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