※真・帝国学園戦後ネタバレ






「佐久間っ…!」


薄らと目を開けると其処には目に涙をいっぱい溜めたみょうじの姿があった。鼻の頭や目尻が真っ赤で、先程まで泣いていたのだろうかと未だ朦朧とする頭で考える。一度瞬きをして、乾いた唇を動かした。


「なまえ?」
「っ、やっと起きてくれた…」


よかった、と声を出して俺の片手を掴むなまえ。どうして今この状況下にあるんだろうかと考えて脳裏に思い浮かんだのは救急車の音。そういえば俺は真・帝国学園だかなんだかいう話にまんまと乗せられ、禁断の技とされている皇帝ペンギン1号を3度打ち、フィールド上で倒れてしまったんだったか。なまえが握る手を握り返そうと手に力を込めたけれど、握るなどもっての外、指先さえ動かすことができなかった。


「…悪いな、身体、動かないんだ」


申し訳なさそうに笑ってみせれば、なまえはまたすぐに涙を零して緩く頭を左右に振った。


「馬鹿佐久間っ。帝国のみんなも、私も…すごく心配したんだから…!」
「…すまない、な」
「謝って済む話じゃない!身体だって、こんな…」


ボロボロになって。全身を動かそうとしても、動いても首を少し傾げることくらいだった。手も足も何もかも、今は微動だにしない。
そこで鬼道さんがフィールド上で叫んでいた言葉が脳裏でリピートされた。言いようのない恐怖が全身を襲う。


『二度とサッカーができない身体になるんだぞ!』


二度と、サッカーができない。それは今まで人生をサッカーに捧げてきた俺自身にはこれ以上ない苦痛だった。俺からサッカーを取れば何が残る?何も残らないのではないか。


「…もしこのまま身体が治らなかったら、」
「!」
「俺、どうしたらいいんだろうな」


自嘲気味に笑みを零した。何も残らない俺を必要としてくれる人などいるのだろうか。もしもの場合を考えれば考えるほど嫌な思いに行き着いてしまう。


「何言ってんの、本当に馬鹿佐久間ね」
「え?」
「治るわよ、死ぬ気でリハビリすれば絶対治る」


濡れた目元を拭おうともせず涙を流しながらなまえは笑った。何も残らない俺を、…なまえだけは必要としてくれるだろうか。他の誰にも必要とされなくても構わない、ただこいつだけはずっと一緒に居てくれたらなあ、なんて。


「早く治して憧れの鬼道さんとまた一緒にプレーするんでしょ」
「…そうだな」
「佐久間のくせにそんな弱気なこと言うなって感じ」


彼女の笑顔に釣られるようにして、俺も頬が緩んだ。去り際に鬼道さんと約束したことを果たす為、目の前で泣いているなまえをもう泣かせない為にも、俺は治さなくてはならない。少しでも早く、元の身体に。


「…口が悪いのは相変わらずだな」
「お互い様、だよね」


いつの間にか胸の中に芽生えていた暗い考えは消え、俺となまえは顔を見合わせるとおかしそうに笑いあった。



バイバイ、涙

(それから程なくして、隣のベッドから声がした)




100104/バイバイ涙

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