※亜風炉が病んでる




逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ!自分にただひたすらそう言い聞かせて、私は足を動かす、地面を蹴る、走る。息が乱れて呼吸が苦しいだとか、足が重くなってきただとか、そんなことを考えている余裕なんてない。とにかく走らなくては、逃げなくては!彼に追いつかれる前に。
西日が射す学校の廊下、ばたばたと大きな音を立てて自分の教室の前を走りぬけた。この向こうの階段を下りれば昇降口だ。外に出ればどうにでもなる、一刻も早く。そう思って右足をもう一度踏み出した。途端、世界の色が変わる。


「どうして逃げるんだい?」


私の身体を正面から抱きしめた【それ】は私の視界を真っ白にしながら耳元で甘く囁いた。ぞっと悪寒が走る。


「や、めて!離してよ!!」
「どうして?僕はこんなに君のことを愛しているのに」


そう言って目の前の【それ】…亜風炉照美は私の目の前でにっこり微笑んでみせた。嫌だ、こんな笑顔見たくない。
私は彼が好きだった。彼も私を好きでいてくれた。最初はよかったんだ、彼の本性に気付くまでは。照美は束縛が激しかった。他の男の子と話さないように、自分だけを見るように、そう言われていた。違和感を感じながらも私はそれに従ったし、男の子と話したりしていない。でも、本当は其処からだった。


「なまえ、僕のお願いが聞けないのかな?」
「う、うるさいっ…離してったら、」
「もう一度言おうか、僕のお願い」


私の手首を、照美がすごい力で握った。鈍い痛みと同時に逃げ出せなくなって私は顔を歪める。照美の口元が孤を描いた。


「僕以外誰とも離さないで。誰にも君の笑顔を見られたくないんだ。それから誰にも見られないようにして。なまえを目に映すのは僕だけでいい。ああそうだ、こんなことしなくてもいいよね。僕が君を隠せばいいだけの話なんだから」
「隠、す…?」
「そう、僕しか君を見ることができないように、笑いかけられないように」


私の片手首を凄まじい力で握るのと対照的に、照美はもう片方の手で私の髪を優しく撫でた。震えて歯がガチガチと音を立てている。怖い、怖い、…怖い。


「君を監禁すればいいだけの話だよね、なまえ」


にっこりと笑うその表情と彼の動作が矛盾していて、目の前のこと全てが歪んで見える気がする。怖い、恐ろしい、逃げたい。でも足が竦んでいることと手首に加わる強い力にその意思を阻まれる。照美は私の髪を撫でるのを止めてその手で銃の形を作った。銃口のつもりだろうか、立てられた人差し指をそっと私の米神に当てる。本物じゃないからどうなるわけでもない、それなのに私はどうしようもない恐怖感で胸の中がいっぱいだった。


「今日から君は僕だけのものだ」
「い、や…だ」
「もちろん、拒否権はないけど」


その美しい表情に狂気が混ざり、口元が歪められ、その銃口はぐっと強く押し付けられる。
静かで美しく残酷な声色が、静かな廊下に反響して私の耳に届いた。



ガラガラと崩れていく

(あなたはだれですか)



100104/ガラガラ

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