「吹雪くんの好きな食べ物ってなあに?」
「え?」


彼女、みょうじなまえの部屋に遊びにきていたとある日の出来事。なまえちゃんはにこにこしながら一冊の本を開いて僕をじっと見ている。うーんと悩んでいる間に、もう一度彼女が口を開いた。


「私はね、お好み焼きとか…サラダとか…でも一番好きなのは甘いものなの!」
「甘いもの?…ケーキとか?」
「うんっ、そうそう!チョコケーキでしょ、チーズケーキでしょ…なんと言っても一番は苺のショートケーキ!あ、でもケーキだけが好きなわけじゃなくて、クッキーとかも好きなんだよねー」


僕が口を挟む余裕もないくらい幸せそうな表情を浮かべたままぺらぺらと話し始める。どうやら持っている本はお菓子作りの本らしく、ぱらぱらとページを捲りながら「あ、これ美味しそう!」とか言って目を輝かせてレシピを見ていた。
僕は彼女ほど甘いものが好きというわけでもないけれど、特に嫌いというわけでもない。好きな食べ物、と頭の中で復唱しながら特別そう言えるものってあったかな…と考える。ふと、一つだけ好きなものが思いついた。


「僕にもあるよ、好きな食べ物」
「えっ、なになに、吹雪くんの好きな食べ物って」


お菓子なら私が今度頑張って作ってみるよ、と満面の笑みを浮かべる彼女に釣られるようにして口角があがる。僕はそっと手を伸ばすと、なまえちゃんのふわふわの髪に触れた。


「僕も、甘いものが好きなんだ」
「吹雪くんも?じゃあデザートは別腹って言える派?」
「そうだね、別腹かも」


思わず頬が緩むのを感じながらなまえちゃんに触れている方の手で彼女を僕の方へ引き寄せて、その髪にキスをする。少しおかしいことに気付いたのか、僕の下でなまえちゃんが少し困惑したような声を出していた。


「ふ、吹雪くん…?」
「別腹だから、何度だって食べたくなっちゃう」
「そ、それってデザートの話だよ…ね?」
「うん、デザートの話だよ」


僕を見上げるなまえちゃんの瞳と視線が絡んで、今度はその赤く染まった頬にキスをした。僕は何も、間違ったことを言ってるわけじゃない。


「く、擽ったいよ…」
「ほら、甘い」
「へ?」
「なまえちゃんが甘いって言ったんだよ」


今度はぺろっとその頬を舐めてみる。小さな悲鳴が上がったと同時、やっぱり甘いと思った。続けてそのまま瞼にキスをして、額にもキスをして、なまえちゃんの顎を指先で少し持ち上げる。戸惑うように揺れる瞳も、甘そうだと思った。


「わ、私なんか食べても美味しくないよ?ケーキじゃないもん」
「そんなことないよ、すごく美味しそう」


それから親指でぷっくりと膨れた赤い唇をなぞる。どれも一番美味しそうだけど、やっぱりこれが一番美味しそう。そう思うと身体が勝手に動いて僕の唇をなまえちゃんの真っ赤なそれに重ねた。ふわふわして、やっぱり甘かった。


「っん」


驚いたようなくぐもった声が聞こえて、そっと唇を解放する。恥ずかしそうな表情を浮かべるなまえちゃんに、僕の中の欲求は深まるばかりだった。だって彼女の唇はまだまだ、甘そうだ。


「やっぱり何度だって食べたくなっちゃうな」
「えっ…や、吹雪くん、」
「もちろんもっと食べていいよね、なまえちゃん」


彼女の返事を聞くつもりなど毛頭なく、僕はもう一度その真っ赤で甘い唇に口付けた。



デザートは食前に

(もちろん食後にも、ね!)




091230

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